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ー至福ー94
天ぷらは前に和也にも作って貰った事があったけど、雄介だと案外初めてなのかもしれない。
そして野菜がリズムよく切られて、次に聞こえて来たのは油で揚げる音だ。
揚げ物を揚げる音っていうのは、何だか懐かしい音のような気がするのは気のせいであろうか。
昔懐かしいというのか、夕飯になるとどこかしらでいつも聞こえていたような音にも思えて来る。
遅くなった学校の帰る時間、部活の後、そして大学から帰宅してくる時間と、学生の頃は全部帰宅時間に夕飯の匂いや音を聞きながら住宅街を抜けていたような気がする。
そんな懐かしい音を聞きながら俺は雄介の事を見上げていた。
しかし今と昔では確かに変わって来たのだけど、変わってないものも多い。
昔の小説家や漫画家はよく地球の未来図を想像していたのだけど、全くその未来図通りにはまだなって来てはないようだ。
透明なトンネルの中を車と人が通り雨天関係無く自由に外に出れる世界ではまだ無いようだ。
まだまだ、その世界観には付いてきてない。 だけど物の方は段々と進化してきているようにも思える。
電話なんかは一番分かりやすい。
俺が小さい頃というのは、世に言われていた、黒電話で一家に一台という感じだったけど、今は携帯電話が普及して来て一人一台の時代になって来た。 だからなのか直ぐに誰とでも繋げる事が出来る。
特に世の恋人達は本当に便利な物となっただろう。
一昔前前は一家に一台しかなかった電話。 恋人同士になってもなかなか恋人の家に電話する事が出来ず、やっと恋人の家に電話しようと恋人の家に電話を掛けたのはいいが、恋人の大黒柱が出てきた時には無言で切ってしまうというのがあった位なのだから。
今では、電話も一人一台の時代になって来て、恋人同士というのは直ぐに電話を掛けられる。
俺はもうとっくにそういう時代になっていたのだから、雄介とはその電話でずっと繋がっていた。
これがもし携帯電話がない時代だったら、どうなっていたのであろうか。
俺と雄介というのは、それぞれ一人暮らしをしていたのだから家電には全然電話出来たのかもしれないのだが、携帯電話のようにそんなにしょっちゅう電話していなかったのかもしれない。 特に俺なんかは自分から掛けるっていうのは少ないのだから今以上に電話してなかったのかもしれないという事だ。
メールなんてなかったのだから余計になのかもしれない。
そこで雄介にその話題を振ってみる事にした。
「なぁ、雄介……もしさ、まだこの世に携帯電話が無かったら俺達ってどうなってたんだろうな?」
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