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ー至福ー156

 雄介はそこで一旦言葉を切ると話を続ける。 「俺等だって、ホンマ散々話したんやけど、どうしても俺等の場合には、代理出産を姉貴に頼まないといけないし、やっぱ、それだけ頼んで俺等だけが島に戻るって事、出来へんやろ? せやから、俺は姉貴が大変な時、側におって家事や身の回りの世話をしたいと思ってるし、ホンマ、妊娠期間って大変だって事、俺は産婦人科で研修もしてたから分かるしな。 その赤ちゃんが産まれた後だって、母親のケアも必要だって事もな。 それに、例え普通に育って来ていても、いつ何が起こるかっていうのも分からへんし……もしかしたら、突然、赤ちゃんのが病気になってもうて、死んでもうた。 って時に俺等が島におったんじゃ、何が起きたのか? っていうのも分からへんし……そういうの諸々込みで、俺等は今回東京の方に行く事にしたんやって……」  そこまで雄介が説明すると、やっと裕実の方も分かってくれたようで、急に寂しそうな表情だったのにも関わらず段々と笑顔取り戻して来たようにも思える。  でもまさか裕実がそこまで俺等と離れるっていう事を寂しいと思っていてくれたなんて思ってもみなかった事なのかもしれない。 「そうなんですよねぇ。 分かりました! 僕の方は大丈夫なので、雄介さんと望さんは東京の方で頑張って来て下さいね。 それで、一年後または二年後にここに戻って来てくれた時には、元気な赤ちゃん見せて下さいね」  と本当に最後の方は納得して満足してくれたのか、裕実の方は満面な笑顔でそう言うのだ。  そこに安心する俺。  しかし今回は裕実が本音で俺等に話をしてきてくれたようにも思える。 もう俺等の関係っていうのは、軽く十年って言っても過言ではないからなのかもしれない。 それが一旦離れる事になるのだから、寂しくなるのも当たり前の事なのであろう。  そこから俺達というのは、和也がお風呂から上がって来るまでの間、楽しく会話をしていたのだが、まだ和也がお風呂から上がって来る気配というのはない。  もうそろそろかれこれ一時間は経つような気がする。 「流石に和也の奴、遅くねぇか?」  そう言うと、雄介も裕実も気付いたようで、時計の方へと視線を向けるのだ。 「確かになぁ……流石に遅い気がするわぁ……」 「ですよね。 僕、見に行って来ますね!」  そう椅子から立ち上がると、お風呂場へと向かう裕実。  昔、俺等の間でもこんな事があったような気がする。  そうまだ俺と雄介が付き合ったばっかりで、雄介が俺の家にあるお風呂に初めて入った時をだ。  初めてだった俺の方は、雄介が遅い事が気になって、様子を見に行っていいのかが分からないでいたのだ。  流石の俺でも初めての雄介の体を見るのは気持ち的に勇気がいたからだったのかもしれない。  男同士だから平気だっていう人もいるのであろうが、やはりそこは恋人だっていう意識があったから、裸と言うことに俺は躊躇していたのだから。

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