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ー至福ー155

「そ、そこは、大丈夫ですよ……」  雄介とはまともに話をするのは初めてだからなのか裕実の方はど緊張したままだったのだが、そう笑顔で答えてくれる。 そこにホッとする俺。 「ほなら、良かったわぁ。 それだけでも俺等の方は安心して東京の方に行けるっていうもんやしなぁ。 な、望……」  そうやって急に俺の方に振って来る雄介。 だがそんな雄介に俺の方も、 「ああ、そういう事だからさ……」  と答えるのだ。 それが正解か? なんて事は分からないのだけど、とりあえず俺の方は雄介の意見に同意したというところだろう。 「ホンマ、俺等のわがままでここを離れる事になってもうてスマン……」  そこでテーブルの上に両手をついて真剣に目の前にいる裕実に向かって頭を下げる雄介。 「あ、いや……あ、あー……大丈夫ですから……本当に気にしないで下さいね」  と裕実の方は言っているのだが、まだ雄介の方は引き上がらないようにも思える。 「まさか、俺等だって、俺等の人生の中で同性婚が認められるなんて事、思ってもみなかったから、こうな、お前等の気持ち考えへんで、自分達の意見だけでこれからの事、決めてもうてホンマにスマンっ!」  本当に雄介の方は裕実に向かって誠意が伝わるように謝ってもいるし、声の方もしっかりと悪いという気持ちが籠っているようにも思える。  本当に雄介って、そこの所は凄いというところだ。 俺じゃなくても誰にでもしっかしと誠意を込めて謝ったり出来るという所なのかもしれない。 一見簡単そうに思えて、人に謝るなんて事、出来ないもんなのだから。 「俺等だけで舞い上がってもうて、ホンマにスマンっ!」  今日はもう裕実に対して雄介は何回謝って来たのであろうか。 だが雄介の方はこうまだ終わらないのは何でなのであろうか。 そこの所は俺にも分からない所でもある。 「いえいえ……そこは、望さんと雄介さんとで決めた事なんですから、僕がどうのって言える立場ではないのでね」 「ほなら、良かったわぁ……」  そこで急に安心する雄介。  もしかしたら、雄介は今の本気の裕実だけの気持ちを聞きたかったのかもしれない。 そういつもは和也が裕実の横にいるのだから、和也がどんどんと答えてしまって裕実の気持ちを良く聞けてなかったのだが、今は和也の事を無理矢理にでもお風呂へと行かせて、雄介は裕実の本当の気持ちを聞きたかったのであろう。  やっと雄介が今裕実と会話してみたい気持ちが分かったような気がする。 「やけど、裕実の本音っていうのは、俺等と離れてまう二年位が寂しいっていう事なんやろ? 寂しいのは俺等も同じなんやで……だけど、一度きりの人生だから、こうやりたい事はやって生き抜きたいやんかぁ……こうやって、裕実達と離れてまうのはホンマ俺等だって寂しい事なんやけど……俺等の方は望と結婚したいと思うとるし、子供も作りたいと思うとるしな」

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