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ー至福ー154

「ホンマ、今まで、俺や望が喧嘩した時、望の話を聞いてくれて、ホンマ、ありがとう……」  そこまで言って次は頭まで下げる雄介。 「今な、和也にはお風呂に入って貰っておるから、裕実は和也がおらんと一人になってまうし、今は俺が裕実の相手になってまうけど、そこは堪忍な……」 「あ、いえ……そこは、気にしてませんから……」  そう答える裕実は何かこう落ち着かない様子で動揺しているのは明らかだ。  確かに今まで雄介が裕実に面と向かって何か会話した事は無いに等しいのかもしれない。  ただ単純に今日はたまたま和也が一人お風呂に入る事になってしまったのだから、いや、雄介が半無理矢理強制的に和也の事をお風呂に向かわせたっていうのもある。 それだってきっと雄介の事だから意味があるのであろう。  しかしこう雄介と裕実が会話するのが初めてだからなのか、本当に裕実の方は緊張しているように思える。 それに雄介自ら、こう裕実に向けて話するのも初めてのことだろう。  たまたまなのであろうか。 それとも雄介はお風呂で色々と考えて来たからなのであろうか。 こう何かいつもと違う空気なのは間違いない。 「ホンマ、裕実には感謝しとるからな。 俺等と友達になってくれてありがとうな」  そう笑顔で言う雄介。  しかし全くもって今は雄介が考えている事が分からない俺。 だからなのか本当に聞いている事しか出来ないっていう所だ。 しかも雄介の場合には絶対に人を傷付ける事も言わないのだから、こう俺の方も安心して聞いていられるのかもしれない。 相変わらず、雄介の場合には謝ってからとか感謝の気持ちを述べてから本題に入るような気がする。  和也の場合には先に本題に入ってから話を始めるのだから。  そう前にもあったような気がする。 雄介の場合には何回でも謝ってから本当の理由を言って来ていた事がある。 俺が記憶喪失になってしまい、雄介的には逃げるようにしてレスキュー隊の訓練に行ってしまい。 その後、異動になってしまった事を俺に言わずに春坂を出て、そして春坂で大地震が起きた時に真っ先に春坂へと来て、俺と会った時に険悪ムードだったのだけど、その後はしっかりと雄介は謝ってから言い訳をしていた事をだ。  雄介の場合、心から悪い事をしていると分かっているからこそ、先に相手に謝ってから言い訳をするのであろう。 出来るようで案外それは簡単には出来ないような事だと思う。 だからこっちもこう怒る気にはならなくなってくるという所であろうか。 「俺等の勝手な都合で、一年いや二年、この島から離れてしまう事になるんやけど、その間、本当にそこは悪いけど、裕実や和也にはこの診療所を守ってくれるか?」  そう告げる雄介は本当に裕実に向かってお願いしているようだ。 しかも本当に優しい声で優しい気持ちで言っているからなのか、さっきまで裕実の方は寂しい感じの表情をしていたのだけど、微笑んでいるように見えるのは気のせいであろうか。

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