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ー未知ー12
それから、雄介は美里さんとの電話を切った。
そこに俺も雄介も息を吐いたのは言うまでもないだろう。
「雄介のお姉さんって、相変わらずなんだな」
「ホンマ、そうやねんなぁー。 何で、あんな感じなんやろ? ホンマ、こっちが疲れて来るわぁ……」
そして、雄介の口から漏れてきたのは完全な愚痴だ。
確かにそうなのかもしれないけど、ここまで雄介のことを疲れさせるとは思ってみなかったのかもしれない。
しかも、今の雄介は完全に机の上に顔をうっ潰してしまっているのだから、相当参ってしまっているようだ。
「あぁ! ホンマ、無理や!」
と弱音を吐くもんだから、
「でもさ、俺達っていうのは、そういうのちゃんと決めて、こっちに戻って来たんだろ?」
俺は雄介に向かって微笑みながら、雄介の頭を撫でる。
すると、雄介という人間っていうのは単純な奴で、俺の方へと視線を向けて来る。 そしていつもの笑顔で、
「ホンマ、望がいるだけで俺の方は頑張れる気がしてくるわぁ……」
と言っていた。 そして気合が入ったかのように急にその場に立ち上がると、
「ほな、次は望のお父さんに電話しないとやな?」
「……へ? あ、おう……」
まさか今日中にそんなに色々なことをやるとは思ってなかった俺。 いや、確かに美里さんだけでは時間が余ってしまい、俺達の場合にはどうしたらいいのか? っていうのが分からなくなってしまうのだから、いいのかもしれないのだけど。 俺だって、自分の親父に電話するのは未だに緊張することだ。 いや、今回の件についてはいつも以上に緊張をしているのかもしれない。 だけど、俺たちの未来のためにやるべきことはやっておかないということだろう。
今度は俺のスマホを開く番だ。
いつも持っている手が今日は緊張のせいで震えてくる。 たった暗証番号を入力するだけでスマホ画面というのは開くのに、今はそれさえも億劫に感じてしまうほどだ。
なお、寧ろ鼓動だって緊張のせいか、いつもより早い。 いつも簡単にスマホを操作しているのに、今は全くもって手がいつものようにスムーズに動かない位に緊張しているという事だ。
そんな姿を雄介が見ている。 そして心配そうに俺の顔を覗き込んで来て、
「大丈夫か?」
といつものように優しい声色で声を掛けて来てくれるのだ。
「あ、ああ……大丈夫だ……」
とは俺の方は答えるものの、流石に俺の方は完全に声が震えてしまっていた。
口で「大丈夫だ」と言っていても、心の中では「大丈夫ではない」と言っているのと同じだという事だろう。
「なぁ、望……今だけ、俺に望のスマホ貸してくれるか?」
そう真剣な口調で、俺に安心してもらう為なのか腕を掴んでまで言って来てくれる雄介。
「え? あ……」
それと同時に俺の方は雄介の方へと視線を向けるのだ。 視線の先に入って来た雄介の顔というのは、本当に真剣そうな表情そのもので、久しぶりに俺の心までもドキリとさせてくれる。
俺はそこで数秒間固まってしまい雄介の顔を見つめていてしまっていたようだ。
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