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ー未知ー22

 だからそこは素直にスーツへと着替える。  今日はちょっとオシャレにしたくて、濃い茶色でベスト付きのにしてみた。 こういう色のスーツっていうのは、普段日には着れないと思ったからなのかもしれない。 雄介の方は紺色と大人な感じで決めている。 そんな雄介に胸をときめかせてしまうっていう事は、まだまだ俺の中では雄介を好きだというのであろう。  そして用意を終えると、朔望に借りて車に乗り込む。  今日はどうやら雄介が運転してくれるようで、 「車のキーくれへんか?」 「あ、ああ……今日は雄介が運転してくれるのか?」 「んー、だってな、そこは、なんていうんか? 当たり前なんと違うの?」 「あ、あー……」  と変に納得してしまう俺。  確かに言う通り、デートって言ったら、男としては運転した方がカッコいいだろう。 そして女性を助手席に乗せて音楽を掛けながらっていうのが定番なのかもしれない。 特に今日は婚約指輪を買いに出掛けるのだから余計にだ。  しかし朔望の車もナビも付いてないような車種で寧ろDVDやCDを入れて曲を聞きながら運転出来る車でもある。 そこは寧ろ俺と同じ車種なのだから当然なのであろうが。  ここからだとちょっと車での移動はある。 だから音楽でも掛けながら、本当、ドライブ気分で向かいたいもんなのだが。 ま、雄介と話ながら向かうのも一興だろう。 「そっか……朔望の車は望の車と一緒でナビ付いてないんやっけな? しかも、CD……」  そこで雄介は何かを探し始めているようにも思える。 「え? お前、何探してんの?」 「あ、ああ……CD付きの車なんやから、ダッシュボードに何かCD入っておらんかと思ってな……」  そう言って、俺の前にあるダッシュボード内をごそごそとし始める雄介。 「おっ! あった!」  と言って雄介はそこから数枚のCDを取り出すのだ。  そして雄介はそのCDを見つめると、 「朔望もなんや、懐かしい感じのアーティストが好きなんやなぁ……」  そう言って微笑む雄介。 だけど俺の方は全くもってアーティストというのには興味無いのだから、興味なさげに『ふーん』としか答えるなかった。  とりあえず雄介はそれをセットして車内に流し始める。  だけどそれは確かに何処か懐かしい曲調で、多分きっと俺も何回か耳にした曲だったのかもしれない。  昔は単純に曲を聞いていたのかもしれないけど、今は歌詞も耳に入って来て、「まるで、その歌詞の主人公は雄介みたい」と思っていると、 「実は、このアーティスト俺も好きなんだわぁ……」  と独り言なのか、それとも俺に言って来ているのかそんな言葉を雄介が言って来るのだ。

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