526 / 855
ー未知ー21
そこは前の俺だったら、絶対に顔を背けてしまうか、怒ってしまっていた所なんだろうけど、今の俺は前の俺とは違う。
そう今の俺は本当に雄介の事を信じているからこそ、素直になれたという事だろう。
長年、雄介と一緒に居て、本当に雄介っていう人間っていうのは純粋で、俺の事しか見てなくて、だから俺の方も雄介の事を信じれる人間になったのだから。
とりあえず俺の方は今一度、親父に連絡を入れると、別に今の俺達っていうのは補欠みたいなもんなのだから、あまり気にしてないようだった。 これがもし本格的に春坂病院で働いているのなら、そんな簡単に休ませてくれるって事はしないのかもしれないけど、まだ補欠みたいなもんなのだから、大丈夫だという事なのであろう。
雄介と二人きりでのデートは久しぶりのような気がする。 いや、一ヶ月前に来た時にもデートしたのだから久しぶりではないのかもしれない。
しかしデートで思い出すのは、雄介と初めてデートした時の事だ。
ホント、あの時っていうのは、もうあのビル自体が古かったからなのであろうか。 だから二箇所で火事が起きてしまったのだから。 それで雄介が他のところに行っている間に俺達が休んでいたファーストフード店で火事があって、その時に俺の方は完全に巻き込まれてしまっていたのだから。
それからスプリンクラーでビショビショになってしまった服を変える為に街中を歩いていたら、俺の方は急に何だか倒れてしまったようにも思える。 そこからの記憶というのは本当に無くなってしまっていたのだから。
婚約指輪を買いに出掛けるとなってからは、出掛ける用意を始めていた雄介。 そんな雄介に俺は声を掛けるのだ。
確かに俺が記憶喪失になってしまった時の話は和也にも聞いたのだけど、だけど俺の中ではあの話はまだ完結していない。 和也の話では病院に着いてからの話なのだから、俺が倒れてしまってから雄介が救急車を呼ぶまでの話は俺の中では無いのだから。 そこを聞いたら、その時の話は完結する。 そしたら俺的には満足なのかもしれない。
雄介は出掛けると分かっているからなのか、俺の周りをいそいそと動いている。 俺の方も昼ご飯を食べ終えて、食器だけを流し台へと置くと、俺の方も出掛ける用意を始めるのだ。
しかし婚約指輪を買いに宝石店に向かうのだから、簡単なデート服では行けないだろう。
「雄介! 服は私服じゃない方がいいんだよな? やっぱ、スーツで出掛けるか?」
「え? あ、確かに、そうやんなぁ……流石に宝石店にGパンにTシャツはアカンねんやろ?」
その言葉に俺の方は笑えて来る。 確かに雄介の言う通り、流石にGパンにTシャツでは宝石店には出掛けるのは恥ずかしいと思ったからだ。
ともだちにシェアしよう!