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ー未知ー92
「あー、来いよ……」
と今度もまた挑発的な言葉で雄介の事を誘ってしまってようにも思える。
「あ、違う……」と心の中で思い、首を振ると、
「あー……だからだな……もう、俺の方が来て欲しいんだけど……」
流石にこの言葉を真っ直ぐ言える訳もなく、俺の方は視線を外して言ってみた。
「ホンマ、望は無理せんでええねんで……」
そう優しく言って来てくれる雄介。
「でもな、望が、そう思ってくれているんやったら、寧ろ遠慮なくっていうんか……俺の方が、そろそろ限界やしな」
本当、雄介には頭が下がる思いだ。
今までここまで俺の事を愛してくれた人が居ただろうか。 いや確かに物心付いた時には、もう父も母も日本にはいなかったのだから、親の方は論外だ。 ずっと俺のそばに居てくれたのは祖父母で、確かに俺の事を大事にしてくれていたのは覚えているのだけど、愛していてくれたと言われると分からないところでもある。
いや愛していたというのはあるのだけど、雄介まではなかったのかもしれない。 俺の事を自分の事を本当に心から愛してくれるのはきっと恋人か親なのであろう。
そう俺の場合には、もう物心付いた時には親達はアメリカの方に行ってしまっていたのだから、人から愛されていたという事は知らなかった。 だけど雄介と出会って、初めて俺の方は人に愛されているというのを知ったのかもしれない。
愛に包まれるって、こんなにも温かくて幸せなんだということが、雄介のおかげで分かったような気がする。
「ほな、挿れてええか?」
そう優しく笑顔で言って来る雄介なのだが、やはり本当に雄介の方は限界なのか、気持ち的に表情に我慢しているのが見えているような気がするのだ。
だから本当に雄介が我慢していたのが伺えたのかもしれない。
それに俺の方も大分雄介の事を見てる事が出来るようになったのだから、色々な表情が見れているという事になるだろう。
確かに言葉では色々と心の中にある思いと違う事を言うのは出来るのだけど、表情だけは人間誤魔化す事は出来ないという事だろう。 ただ表情までも誤魔化せる事が出来るのは俳優や女優だけだ。 ということだ。 一般人にはそういったことを隠すことは出来ないのだから表情で本心が分かるということなのかもしれない。
本当、雄介っていう人間は裏表というのが無い人間だというのが分かった気がする。
そんな雄介に完全に心を許した俺。 だから結婚だって決めたのだから。
その言葉に俺の方は、笑顔で、
「ああ……いい……」
と答えたと同時に頭も頷かせる。
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