679 / 854
ー未知ー174
「とりあえず、雄介……そこに座れよ」
そう言って、さっき座っていたカウンター席へと雄介を案内する俺。
一瞬、雄介は「ん?」という感じに首を傾げていたものの、もしかしたら俺が持っていた救急箱が視界に入ったのかもしれない。それを見た瞬間、雄介は俺の方へと歩み寄ってきた。そしてさっき座っていたカウンター席へと腰掛ける。
「……で、どこを怪我したんだ?」
「あー、んー……ここかな?」
雄介のその態度に、何だか俺に治療してもらうのがちょっと恥ずかしいような感じがしているのは気のせいだろうか。
俺は差し出された右手の人差し指を取る。
「これくらいだったら、絆創膏を貼ってれば治るだろ?」
「……まぁな」
雄介は本当に治療をしてもらうのが恥ずかしいのか、視線を逸らしたままだった。
確かに大きな怪我の時は病院で何度も俺が雄介の治療に当たっていたが、こういった家での小さな治療はしたことがなかったのかもしれない。だから雄介が恥ずかしそうにしているのだろう。
とりあえず傷ついた指に丁寧に絆創膏を貼る俺。
久しぶりに改めて雄介の指を見てみると、本当に雄介の指は太くてがっちりしていて男らしい。
そこに見惚れながらも絆創膏を貼り終えると、
「これで、もういいだろ?」
と俺は雄介に笑顔を向ける。
どうせここで美里との話を持ち出しても、もうどうにもならないのだから、その話は本番にとっておいて、とりあえず、
「少し時間が余っちまってるみたいだけど、どうする?」
「そやなぁー?」
何かが抜けているような雰囲気で話し始める雄介。
午後から美里と真剣な話をしなければならないので、今の雄介はきっと何かが抜けてしまっている状態なのだろう。
俺は美里のことについては雄介としばらくしてからしか会ったことがないが、雄介にとっては自分が生まれた時から一緒なので、よく知っている人物だからこそ憂鬱なのかもしれない。
もし本当にそこまで雄介が憂鬱なら、代理出産を頼む人物を今更ではあるが、変えてもいいと思い始める。
そこで、俺は、
「あのさ……」
と声をかけると、雄介はカウンターテーブルに顔を伏せていたが、その顔を上げる。
「……ん?」
「……あー、代理出産の件……変えてもいいんだぞ」
俺の口からは、それが限界だった。しかし、雄介ならその一言で俺が言いたいことが伝わっているだろう。
ともだちにシェアしよう!