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ー未知ー180

 その頃にはお昼ちょっと前になったからなのか、入店した時よりも人が増えているように思えた。  平日のこの時間帯は、小さい子供を連れた親御さんが多い。きっと父親は仕事に出ているのだろう。近所のお母さん達が、まだ未就学児を連れて集まり、会話に花を咲かせるのだろう。  そして、ファミレスなので、世間が休みの日には家族連れで賑わっているのかもしれない。  俺は小さい頃から親が海外に暮らしていたので、祖父や祖母に育てられたため、ファミレスにはあまり行ったことがなかった。こうして雄介達と出会うようになって、数回来たくらいだ。今だって、初めてドリンクバーというものを経験しているのだから。  雄介はどうやら、そこに来ていた小さい子供達を見ていたらしく、 「やっぱ、ええよなぁ……子供って……ホンマ、癒されるわぁ……」  その雄介の言葉に、俺は反応する。 「……子供に癒されるって、どういうことだ?」  俺には『子供』に癒されるという言葉がよくわからなかったので、雄介に尋ねた。 「ん? だって、子供って癒しやろ?」  雄介が俺を見つめてそう言ったが、俺はまだ頭の中で疑問符が浮かんでいる。 「そういうもんなのか?」 「ん? まぁ……あー、俺からしてみたら? ってことなんかな?」 「やっぱ、雄介は小児科医で良かったのかもな……」  そう言いながら、さっき入れてきた炭酸飲料を口にした。  久しぶりに口の中に広がるシュワシュワ感。その刺激に俺の顔が変な表情になったのは言うまでもないだろう。 「うわぁっ! 炭酸飲料って、こんなにシュワシュワーってしたっけか?」 「……へ? 望はどんだけ飲んでないん?」 「そんなの、覚えてねぇよ……小さい頃に飲んだ記憶しかねぇんだからよ」 「あ、そういうことな……」  どうやらそれは雄介の独り言だったらしい。 「ほなら、確かに、久しぶりの炭酸飲料は変な感じがするかもしれへんねぇ……。ま、せっかくなんやし、最後まで飲んでみたらええやんか……」 「ま、流石にそうなんだけどよ」  俺はその炭酸飲料を飲み続けた。  だが、案外慣れてくると、美味しく感じてくるものだ。  そんなことをしているうちに、先ほど来ていた親子の子供達が急に店内で鬼ごっこを始めていた。しかし親の方は、お喋りに夢中で、全く子供達のことを気にしていないように見える。  時折、子供達は物を運んでいる店員さんにぶつかりそうになったり、お客さんにぶつかりそうになったりしている。それにも関わらず、店内を走り回っているのだった。

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