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ー閃光ー27

 この仕事だって、時間に余裕があるときには和也と二人でやっていた仕事だ。  今、俺の前には薄ぼんやりとだが、そのときの幻影が見えているような気がする。  その幻影を頭を振って回避し、再びパソコンに視線を向ける俺。  その間に美潮は淡々と部屋の掃除を始めたようだ。だが、ここにも変な違いを感じてしまった。  和也が掃除をするときの音はリズミカルで楽しそうだったのに対し、美潮の場合は、つまらなそうにただ仕事をこなしているという感じの音だ。  こんな小さなことにも気づいてしまうのだから、本当に俺からすると和也の存在は大きかったのかもしれない。  そこで軽くため息が出てしまう。  仕事に集中したいのに、なぜか集中できない自分がいるのだから。  今だって家に帰れば雄介がいるのに、和也がいないだけでこんなにも寂しい思いをするとは思わなかっただろう。  とりあえず今日はこのパソコンでの仕事が終われば家に帰れる。  それだけを糧に、とりあえず集中して仕事を始めるのだった。  その間に美潮は掃除を終えたようで、 「吉良先生……掃除は終わりました」 「あー、なら、帰っていいぞ……」  と美潮の方を振り返らずに言うのだ。 「では、お先に失礼いたしますね」  そう言うものの、やはり仕事を終えたことがよほど嬉しかったのか、鼻歌が聞こえそうな感じで言ってくる美潮。  これが和也だったら、仕事が終わったら「食事に行こうか?」とか「家に来て、酒飲もうか?」とか「最近、裕実とはどうなんだ?」とかいう会話になるのに、今の看護師とは全くそういった話もしないのだから。  再びため息を吐く俺。  こうも、和也とは違うと違う意味で疲れてくる。  本当に、俺はただのわがままなのかもしれない。  よく考えれば、あんなに馬鹿みたいなことをしていた和也に呆れていたはずなのに、案外、それを楽しんでいたのだろう。  美潮は掃除を終えて着替えると、 「お疲れ様でしたー」  と言って部屋を出て行く。  とりあえず、俺と新しくコンビを組んだ美潮とはそういう関係だ。  きっと仕事だけの関係ということだろう。  俺はそれから数時間後にパソコンでの仕事を終え、家へと帰るのだ。

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