「あー……さっき、望さん？ が言っていたけど、俺は確か小児科医だったんじゃないでしょうか？ だけど、なんで海の中に入って、船の事故でみんなを助けに行ったんですか？」 　とりあえず、名前を呼ぶのがまだ疑問系ではあるけど、そこは今の段階では目を瞑り、 「あー、その昔の話をするとだな……雄介は消防士でもあったし、レスキュー隊員でもあったんだよ。確かに今は小児科医だけどな。あー、今は……正確には専業主夫かな？」 　その俺の言葉に、再び考え始める雄介。 　本当に仕方がない。雄介は今、記憶という記憶が無いのだから、頭の中での処理速度が普段より遅くなっているのだろう。 　そして、腕を組み始めたところからすると、やはり雄介の中では全然理解できていないようだ。 　そんな雄介の状態を見て、俺は、雄介が記憶を失っていることに確信を持った。 　雄介に質問しても、その答えが見当違いであること、さらに、俺や美里の質問に対して全く自分のことが分かっていないことから、雄介が記憶喪失であることが手に取るように分かる。 　最初は半信半疑だったが、徐々に確信へと変わっていくのを感じる。 　とりあえず、そんな雄介に冷静でいられたことに、俺は息をふっと吐き出した。 「……私が専業主夫……？ ってことは、私は結婚しているってことですよね？」 　「あー！」そこは変に心の中で納得してしまう俺。確かにさっき、俺は雄介に今の状況を説明した時、無意識に伝えてしまっていた言葉だ。雄介はその言葉を拾ったのだろう。 「そうそう！ 雄介は確かに結婚している。今の時代は昔とは違って、男女平等な世界になったから、同性同士でも結婚できる時代になったんだ。だから、雄介は俺と結婚していて、俺は医者だけど、雄介は家で専業主夫をしている。それも大事な理由があって、雄介のお姉さんである美里さんに、俺と雄介の子供を代理出産してもらってるんだ。だから、雄介は昼間、美里さんのところで何かあった時に手伝えるようにしているんだよ」 　再び長い俺の言葉に、少し首を傾げる雄介。 「へぇー、そうだったんですね。俺と望さんは結婚していて、美里さん……私のお姉さんが、今、俺たちの子供をお腹で育てている最中ってことなんですね。何となくですが、今のお二人の説明で、私の今置かれている状況が分かった気がします。だから、記憶が無い私に検査をしてみて欲しいってことですよね？」