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ー閃光ー73

 そう、俺が朝お風呂から上がってくると、キッチンから雄介の笑顔が見えるはずなのに、今日はそれが無い。確かに当たり前のことなのだけど、やはり物足りないというのか、朝というのは、あの雄介の笑顔で目覚めることができると言っても過言ではないからかもしれない。  俺はため息をつきながらも、一人で仕事に行く準備を始める。  とりあえず、朝ご飯はコンビニで買って行くしかないだろう。  だから、ゆっくりしている暇はなく、俺は急いで着替え、家を出る。  雄介の様子を見れないまま、今日は出てきてしまったような気もするが、雄介は本当に大丈夫なのだろうか。  それが心配になりながらも、雄介があんな状態でも、患者さんは待ってくれない。俺は仕事を優先し、途中でコンビニに寄っておにぎりとお茶を買い、病院へ向かう。  そして、病院にある自分の部屋でおにぎりを食べていると、美潮が出勤してきた。 「おはようございます!」 「ああ、おはよう」  そう簡単に挨拶を済ませる俺。  美潮とは、和也たちとは違い、本当に仕事場だけでのパートナーだから、そんなに親しい仲ではないのかもしれない。 「え? 吉良先生……朝ご飯食べてこなかったんですか?って、もしかして、結婚した相手が朝ご飯作ってくれなかったとか?」  美潮のその言葉に、俺は吹きそうになる。  美潮という人間は、本当に真面目に見えるのだが、たまに無神経なところがあって、融通が効かない人間のようにも思える。要は、俺からすると、わりとめんどくさい奴なのかもしれない。  しかも和也の場合、無神経なことを言いながらも愛情がある言い方をするから、俺が怒ったとしても、心の中にある感情を引き出してくれる。だから、そんなに腹が立つことはない。しかし、美潮の場合は、全くそんなことを考えていないからこそ、余計に腹が立ってくるのだ。 「いや……そうじゃなくてな……。あれ? 昨日、俺はお前に言わなかったっけ? 俺の今のパートナーは、病気っていうのか、記憶喪失になったんだって……」  一瞬、その言葉に美潮は驚いたものの、 「え? そうだったんですか?! うわぁ……記憶喪失の人って、初めて見たなぁ……こんな身近で起こるものなんですね」  素直な気持ちと、心に突き刺さるような言葉を同時に言ってくる美潮に、やはり朝からイライラさせられるのは気のせいではないだろう。  本当に、美潮と話すこと自体が面倒くさいと感じてしまう。

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