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ー閃光ー75

「しかし珍しいですよねぇ? 吉良先生が自ら私たちの席に来るなんて……」 「だって、お前が呼んだようなもんだろ?」 「え? 私が吉良先生を呼びましたか? 私にはそんな記憶、ありませんけどね」  その新城の言葉に、俺は席を立とうとしたが、新城の腕によって止められてしまった。 「吉良先生って、そういう人ですよねぇ」  と、くすっと笑いながら新城が言う。本当に新城の方が余裕があるという感じだ。 「とりあえず、私たちに話してみませんか? 今日の吉良先生は、いつもより元気が無さそうですし……」  そう言いながら、新城は実琴の方に視線を向け、何かを訴えているようだった。実琴もその意味が分かったのか、首を縦に振った。  俺は仕方なく、今日は新城たちがいる席に留まり、食事をしながら話を始めた。 「新城先生たちは、知ってるかもしれねぇけど、雄介が記憶喪失になっちまったんだよ……」  新城は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにいつもの表情に戻ると、 「やっぱり、そうだったんですね。流石に驚きましたが、桜井先生が記憶喪失になってしまったんですね。前に診察に来たときは大丈夫でしたが、やはり時が経つと脳に障害が出てしまったんですね」  新城は真剣に俺の話を聞いてくれているように思えた。同じ医者として、興味があるのかもしれない。 「それに、吉良先生も桜井先生も、私にとっては職場の仲間ですから、容態は気になりますよ。桜井先生が記憶を失った今、結婚したパートナーである吉良先生の心情もボロボロでしょう。だから、私たちがサポートします。いや、吉良先生が心を開いてくれるとは限りませんが、実琴と一緒にサポートしていきたいと思っていますよ」  そう笑顔で言う新城に、俺はほっとした。  今の俺がこんな状態だから、新城は本当にサポートしてくれるんだろう。  和也たちと一緒にいることが多かったから、新城とはあまり関わりがなかった気がするが、意外とフレンドリーだったのかもしれない。確かに和也にはああいう態度を取っていたが、それは俺の父親と一緒に計画してやっていたことだったからだ。

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