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ー閃光ー76

 気付くと俺だって、新城に無意識に色々と頼ってきていたのだから。  そう、前回春坂に来て、雄介のことを診てもらった時だって、新城に診てもらっていたのだ。  本当に無意識というのは怖い。自分が考えていなくても、気付いた時にはもう頼っているのだから。  俺は何かが体から抜けてしまったかのように、大きく息を吐く。 「ご飯もここでゆっくりと食べてくださいね……きっと今は、桜井先生に朝ご飯を作ってもらえていないでしょうしね」  その言葉に、俺は新城の方へ視線を向け、目を見開いた。  だって、そんなことは新城には話していないのだから。 「そこは驚かなくてもいいですよー。だって普通のことじゃないですか? よく考えてくださいね。今の桜井先生は記憶を失っているんですよ。ということは、いつもの生活はできていないわけですから、当然、桜井先生がご飯を作ってくれるわけがないじゃないですかぁ!」 「あ……」  確かにそう言われてみればその通りだ。種明かしというわけではないが、新城の言うことは正しい。普通に考えれば、記憶がない雄介が俺のために朝ご飯を作ってくれるはずがないのだから。  何故か妙に感心してしまう俺。  やはり新城は親父である裕二と一緒に働いていただけのことはあるのだろう。  いや、ただ俺が今、冷静ではないだけかもしれない。 「これで私たちのこと、信じてもらえましたか? っていうのも変ですが……私たちは、吉良先生や桜井先生たちに危害を加えるつもりはないってことを分かっていただけると嬉しいです」  そう言って、新城は今度は実琴の方へ話を振る。 「実琴もそうだろ? 吉良先生のこと、嫌いじゃないだろ?」 「ですね。寧ろ、好きなくらいですから、本当に困った時には僕たちに頼っていただいても大丈夫ですよ」  実琴も新城に続いて、笑顔で俺にそう言う。  本当に、実琴は裕実と双子だけあって、顔も声も喋り方も瓜二つだ。目の前に裕実がいるかのように思える。だけど、少しだけだが、喋り方が違う気がする。  何だか、雄介が記憶喪失になって、和也たちもいなくて寂しい思いをしていたが、こうやって新城たちと仲良くなれたのは良いことなのかもしれない。 「ま、とりあえず、何かあったら言ってくださいね……私たちはそろそろ行かせていただきます。休憩時間が終わってしまいますからね……」  そう言う新城は、最後に意味ありげに俺にウインクをしてくるのだった。 「私たち、この時間っていうのは、実琴と屋上で体を重ねている時間ですから……」  新城のその言葉に、俺は食べていた物を吹き出しそうになる。  そうだった。新城という人間はそういう人間だったことを思い出す。寧ろ、和也よりもその手のことに関しては欲に素直なのかもしれない。

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