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ー閃光ー77

 とりあえず、俺は新城たちが去ってから、ゆっくりと食堂でご飯を食べ始める。  俺がこの食堂で好きな場所は、中庭が見えるカウンター席なのだけど、今日は新城たちに呼ばれて中ほどの席にいる。  和也たちがいる頃は、もっと賑やかに感じたのだけど、今はそれもない。ただ職員がここに来て、雑談や話し合いなどに使っている場所でもあるからか、人々の話し声が聞こえるくらいだ。  一人になったことで、ふと思い出す。  雄介は起きただろうか。今、何をしているのだろうか。ちゃんとご飯を食べられているのだろうか。  さすがに俺でも、その辺りは心配になってくる。  記憶がある雄介なら、今頃はきっと美里の家に行って、いろいろな家事をこなし、美里と会話をしているところだろうが、今はそれもきっとないだろう。そう考えると、美里のことも心配になる。  昨日までは、雄介が美里のためにいろいろと家事をしていたのかもしれないけど、今日からは雄介が美里のところへ行かなくなるので、美里は一人でやらなければならないだろう。  母親としては当たり前の家事だったのかもしれないけど、美里が妊娠してからは、ずっと雄介がやっていたことなのだから。  本当に記憶喪失というのは、生活が一変する。今までできていたことができなくなるのだから、当然のことだが、それでもやっぱり困るものだ。  これから俺が仕事を終えて帰宅したら、俺がすべての家事をやることになるのだろう。そう考えるだけで、頭が痛くなる。  いや、俺は家事ができないわけではないけど、仕事を終えてから家事をすることに憂鬱になる。正直言えば、俺は家事があまり好きではない。それに、一人暮らしのときは、色々と溜め込んでからやっていたことを思い出す。雄介のようにマメではなかったのだから。  これからの生活を考えると、やはり頭を抱えたくなる。  そういえば、さっき新城は「実琴と屋上で体を重ねた」と言っていたような気がする。  でも、雄介に記憶がない状態では、体を重ねることだって容易ではない。  いや、雄介の場合、もしかしたら頭の中では「ヤりたい」という気持ちはあるのかもしれない。実際、昨日の夜も危うくヤられそうになったが、何とか交わした。ただ、今日からどうなるか分からない。家に帰れば、記憶のない雄介がいるわけで、昨日のように襲われる可能性だってある。  別に襲われること自体は構わないのだけど、やはり記憶のない雄介は、雄介であって雄介ではない。そこが、俺にとって嫌なところなんだ。

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