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ー閃光ー89

 だが、俺はその一瞬で、今考えてしまったことを跳ね除け、 「では、一緒にお手伝い、よろしくお願いします」  そう言って、新城と一緒にキッチンへと向かうのだ。  確かに帰宅したときから、部屋の中はいい匂いが漂っていたのだが、まさか自分の家からその匂いが漂っていたとは思ってもみなかった。だって、雄介は記憶喪失で記憶が無いわけだし、記憶喪失になってから、雄介がご飯を作った記憶もない。だから、もしかしたら雄介は完全に自分が料理を作れることさえ忘れてしまっているのかもしれない。  キッチンへ向かうと、鍋には豚汁が用意されていた。  雄介が作る料理というのは、こういう家庭的な料理が少なかったようにも思える。そう考えると、確かに美里が作ったのだろう。  俺の方は冷めてしまっている料理に、もう一度火を入れる。 「吉良先生……お皿は、これを使ってもよろしいでしょうか?」  そう言って、新城は早速棚からお皿を出してくる。 「おう……そこからお皿を使っていいと思うぞ」  とは言うものの、俺もこのマンションに住み始めてから、完全に雄介に家事を任せていたのだから、本当に使っていいのか分からない。ここで普段手伝いをしていないのがバレてしまうところだろう。いや、今は全然それでいいのだから、そこは悔やむところではないのかもしれない。  新城とどうにか夕飯の用意を済ませると、ダイニングテーブルとカウンター席に分かれて食べ始める。  とりあえず今日は急に大人数になったので、仕方なく、新城と実琴にはカウンター席に座ってもらい、俺と雄介と美里でダイニングテーブルに腰を下ろすのだった。  しかし、今の俺には美里に聞きたいことがある。だけど、未だに美里とはあまり深い関係ではないから、なかなか聞けないでいる。確かに美里とは親戚関係にはなったものの、人間としての付き合いはまだ浅い。ほとんど美里との会話には雄介が間に入っていたから、俺はあまり話をしたことがなかった。だから、なかなか話しづらいのかもしれない。  だからなのか、俺は食事をしながらチラチラと美里のことを見てしまっていた。  それに気づいた美里が、 「どうしたんですか? 何か私に聞きたいこととか、言いたいこととかあるのかしら? 今の望さんの反応がそう言ってるんですよねぇ」  その言葉に、俺は喉にご飯を詰まらせそうになる。思わず胸を叩いて、詰まりそうになった食べ物を一旦体内へ流すと、 「あ、いや……あ、その……」  やはり美里の前では、未だにうまく言葉を発せないでいる俺。そういうところ、本当に俺ってダメだと思ってしまう。

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