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ー閃光ー95

「あ……」  俺は思わず新城の考えていることに納得してしまい、声に出てしまっていた。  それに気付いたのか、新城は俺に向けてウインクしてくる。  相変わらず新城に先を越されたことにイラッとはしたが、そこはとりあえず抑えて、今は新城に合わせた方がいいだろう。 「……神経衰弱? って、どうやってやるんだ?」  一応、興味を持ったふうに言ってみたが、実際にはこれまでこういったゲームに縁がなく、本気で聞いてしまっていた。 「え? あー!」  一瞬、新城は驚いたような感じを見せたが、さすが頭の回転が早いだけのことはある。その一瞬で俺の言葉から何かを見極めたらしく、その後は丁寧に説明してくれる。  俺もトランプのルールを理解し、そのゲームに参加し始めた。  同じ数字を合わせていくだけのルールで、あとは記憶力が鍵になるゲームだ。  そう、今の雄介にはぴったりのゲームだろう。  記憶喪失というのは、思い出や家族、知り合いに関する記憶がなくなっているのか、日常生活に関する記憶が欠けているのか、さまざまな記憶が失われている可能性がある。だから、こういった簡単なゲームをして、どこに問題があるのか少しでも分かるようにするということなのだろう。  だからこそ、新城はあえてババ抜きや神経衰弱といったトランプゲームを選んで遊んでいるのかもしれない。  どうやらゲームのルールは新城から教えてもらい、雄介もそれを理解してプレイしているようだ。  雄介は間違えることも多々あるが、それでもゲームのルール自体は把握できていると思う。  まずはその点をゲームを通して確認することができたように思える。  そして俺たちは、本当に記憶力が重要な役割を果たしているので、新城と俺の間には微妙な緊張感が流れているのは気のせいだろうか。  確かに今は新城と俺の間でフレンドリーな雰囲気があるが、このゲームに関しては、見えない闘志があるのかもしれない。  一度記憶したことは忘れない。実琴や雄介がミスすると、すぐに俺か新城が取りに行く。  本来は雄介の記憶喪失の具合を見るためのゲームだったはずなのに、今では新城と俺の真剣勝負になってしまっていたのかもしれない。  無意識の攻防戦。  相手に何かを言うこともなく、静かにそのゲームは進んでいた。  そして最終的に、最も多くのカードを保持していたのは、新城と俺だった。 「吉良先生、なかなかやりますねぇ」 「新城先生だって、なかなかですよねぇ」  その言葉からして、新城が俺を意識していたことが明らかだった。

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