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ー閃光ー98

「今までの桜井先生の性格のことは分かりませんが、とりあえず、昨日のお二人のことは分かりました。確かに、普段から吉良先生があまり体に関して求めないのであれば、そういうふうに桜井先生に求められたら、吉良先生のほうは困ってしまいますよね。なるほど、そういうことでしたか。だから、今日の昼間、吉良先生は色々な感情が出てしまい、精神的に何をしていいのかが分からなくなって、パニック状態になっていた、ということですかね?」 「……多分」 「私たちはいつも体を求めていますが、吉良先生や桜井先生のように、お互いの体を求めなくても一緒にいられるカップルもいるんですね」  そう言いながら、新城は一瞬、実琴の肩に腕を回そうとしたが、それを急に止めた。  きっと俺と雄介が今、ちゃんとしたカップルではないのが分かったからこそ、離れてくれたのだろう。俺の心情を分かってくれたからこそ、一瞬で腕を離してくれたのかもしれない。 「むしろ、吉良先生は、これから桜井先生とどうしていきたいんです?」  その新城からの問いかけに、俺は気持ち的に下げていた頭を上げた。 「……え?」  本当に新城の言葉というのは直球だ。和也とは全く違うのかもしれない。そして、朔望と同じような感じで言ってきているのかもしれないのだけど、なぜか新城にはちゃんと言わなきゃいけないという気持ちがあるのは、なぜなんだろうか。  和也の場合には、俺のことを説得して説得して、それで言わせるという感じで、朔望の場合は兄弟だからこそ、逆に言いたいことはストレートに言ってしまうタイプだ。そして、新城の場合にはストレートに言ってきて、さらに「言わなきゃダメ」みたいなオーラを出してくるタイプだ。  そこで俺は息を吐いた。  少し冷静になりたかったからなのかもしれない。そして、少しの間考える。流石の俺も、これだけは考える時間が欲しかったからなのかもしれない。  その間、新城たちは大人しくしてくれていた。もしこれがただ単に遊びに来てくれている状態なら、今のこういう時間は二人でイチャイチャしていただろう。だが今日は違う。どちらかと言えば、俺からの相談に乗りに来てくれているのだから、イチャイチャせずにいてくれているのだろう。  しかし、新城からの質問に、今の俺はどうしたらいいのかが分からない。いや、どう返したらいいのかが分からないと言ったほうが正解なのかもしれない。  記憶のない雄介から離れたい気持ちはあるのだけど、ここで俺が雄介から離れてしまったら、雄介はどうなってしまうのだろうか。そこがまた心配なところでもあるのだ。

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