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ー閃光ー126

「そういうことなんですね。記憶喪失じゃない方の私は、望さんのことが好きなんですが、とても大切にしているっていうことなんですね。そして皆様にもとても愛されているっていうのが分かりました」  その雄介の言葉に、ここにいた全員がそれぞれに笑顔を見せたのは言うまでもないだろう。 「……って、ことだからさ……俺と裕実はお風呂借りるな」 「ああ……そこは、全然構わないからさ」  今の和也たちの意見で、俺の和也に対する見方も変わることができたのかもしれない。  言葉っていうのは本当に大事だ。  心や表情だけでは相手には伝わらないことも、言葉を添えることによってちゃんと相手に伝えることができるのだから。  昔、和也に一度注意されたことがある。  雄介と喧嘩したときに、「メールでは相手に絶対に伝えることができない。だから、せめて電話で伝えろよ」と和也に教えられたことがあったのだ。  メールでは表情や声質は分からない。だから、本当に相手がそう思っているのかが分からない。せめて電話で、というのは、声質で気持ちが伝わるからなのだろう。そしてやはり一番いいのは、こうして相手と向き合って話し合うことがベストだということなのだから。 「んじゃ、兄さん……僕たちの方は、もう、横にならせてもらうねぇ……」 「え? あ、ああ……おう……」  少しばかり早いような気がするが、それはそれでいいのだろうか。しかし、和也と裕実がお風呂に行ってしまい、朔望と歩夢が部屋へと行ってしまうと、俺はここで雄介と二人きりになる。  あまり二人きりでいたことがない俺たち。一体、雄介と何を話したらいいのか分からない。  朔望たちが完全にリビングから部屋へと行ってしまうと、部屋内は秒針の音と和也たちがお風呂に入っている水音だけが聞こえてくる空間になってしまった。  当然、俺と雄介の間にはまだ会話がない。きっと二人ともどうしたらいいのかが分かっていないだけなのかもしれない。  俺が昔、記憶喪失になった時、雄介はどうしてくれていたのだろうか。  いや、むしろ雄介は記憶のない俺から逃げてしまっていて、それをずっと悔やんでいたようにも思える。  恋人が記憶喪失になってしまうと、逃げてしまう行動をとってしまうのだろうか。  確かにそこにいるのは雄介であって雄介ではないのだから、逃げたくなる衝動になるのは分からなくもない。  それが恋人であるなら逃げることはできるのかもしれないが、今の雄介と俺は結婚しているのだから、そう簡単に相手から逃げることはできないだろう。いや、むしろしたくはない。本当に何があっても側にいると誓った間柄なのだから、そこは常識的に一緒にいるのが当然のことなのだから。

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