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ー閃光ー136

「あ、だからだなぁ……」  しかし、和也や裕実には話すと決めたのに、こうしていざとなると、本当にそういうことを言うのが難しい気がする。  しかも、完全に俺は顔を俯けてしまっている。  すると、和也と裕実が一瞬アイコンタクトをしたかと思うと、和也が口を開いた。 「とりあえず……今の望の状況は分かってるよ。だから、俺たちはここに一週間だけでも来ることにしたんだしさ。確かに望には止められたけど、俺と裕実が黙っちゃいなかったってことかな?俺だって、裕実だって、今の望や雄介の状態が心配なんだよ。そこは、親友として、本当に心配で心配で……本当言うと、仕事にも身が入らないほどだって言ったら分かるかな? 前に望が記憶喪失になった時は、まだ俺が春坂にいたから、あまり不安とか心配っていう気持ちにはならなかったけどさ、こう、望とはもう長年一緒にいるから、どうしても気になっちまうんだよな。しかも、雄介が記憶喪失になっちまったっていうんだったら、余計にな。だから、せめて一週間だけでも俺たちに雄介のこと、面倒みさせてもらえないかなぁ?」  そう、優しい口調で俺のことを宥めるように話してくる和也。  その言葉を聞いて、雄介の記憶喪失の件で今まで肩に力が入っていたのが、一気に抜けたような気がした。  一気に体から力が抜けたせいで気が緩み、温かい雫が頬を伝う。手の甲で拭っても、再びその雫は頬を流れ続ける。  和也の言葉で、心に溜まっていた何かが一気に崩壊してしまったのだろう。  今までそれを気を張って支えてきた分、崩壊してしまった後は、自分でも止めることができなかった。  その間、和也も裕実も何も言わず、和也はただひたすら俺の背中を撫でてくれるだけだった。  人間、背中を撫でてもらえると、不思議と気持ちが落ち着いてくるものだ。 「な、だからさ……たった一週間かもしれねぇけど、俺たちに色々と頼っていいんだからな。それに、俺たちの場合、この一週間暇なんだから、家事とかもやっておくしさ……雄介が記憶喪失になってから、望一人で家事も仕事もやってきたんだろ?ならさ、たまには仕事だけを考えたらいいんじゃねぇのか?あー、まぁ……さすがに雄介のことも心配なんだろうけど……でも、俺たちが居れば仕事に集中できるってことだろ?」  少し気持ちが落ち着いたことにホッとして、和也の方へと視線を向ける。 「ああ、そうだな……」  笑顔を和也へと向けるのだった。

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