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ー閃光ー141

 その言葉に、裕実と和也は再び視線を合わせ、今度は和也が、 「いいんじゃねぇのか?」  と笑顔で言ってくるのだ。  きっと二人は俺のことを心から応援してくれているのだろう。  確かに俺は和也たちには春坂に来なくていいとは言ったのだが、やっぱり来てくれて良かったのかもしれない。  そこもさすが和也ってところなのだろう。 「じゃあ……」  そう言ってその場に立ち、もう一枚、和也たちへ掛け布団を持っていく。  その後、自分と雄介の部屋へと入る俺。  雄介はすでに寝ている。部屋の中にはベッドの近くにある電灯だけが点いている。  雄介はこの電灯を点けて寝ないと眠れないのだろうか。それとも、俺がいつ戻ってきてもいいように点けてくれているのだろうか。真意はわからないが、その淡い光が辺りを照らしていた。  そんな中で薄っすらと見える雄介の姿。  どうやら珍しくうつ伏せで寝ているらしい。  いつもの雄介なら、うつ伏せではなく仰向けで寝ていることが多いのに。記憶を失ってからの雄介は、うつ伏せで寝ていることが多いのかもしれない。  もっとも、雄介が記憶を失ったのは一昨日のことだから、その傾向があるのかどうかはわからない。ただ、昨日も今日もそうなのだから、その可能性は高いのだろう。  とりあえず俺はそっと雄介の布団の中へと入る。  すると、背後のほうで何か声が聞こえてきたような気がした。 「……望……来てくれたのか?」  その言葉に一瞬で反応する俺。  雄介の太くて温かい腕が俺の体を包み込む。 「……っ!」  俺の頭の中でパニックが起きそうになる。  今の雄介は記憶喪失の状態で、俺が知っているいつもの雄介ではないはずだ。それなのに、雄介はしっかりと俺の体を太くて温かい腕で包み込みながら、若干関西弁っぽい口調で話してきている。  そう、記憶のない雄介とはまったく正反対の雄介だった。むしろ、いつもの雄介みたいな口調で、こんな行動をしてくるなんて。  まさか、雄介が元に戻ったのだろうか。  もしそうだとしても、さすがに早すぎやしないか?  いや、記憶が戻るのに早すぎるも何もない。むしろ、早く戻ってほしいのだから、それはそれでいいのかもしれない。  俺は思い切って雄介のほうに体を向ける。  そう、今まではずっと雄介に背中を向けて寝ていた。反対側に体を向けていたのだ。

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