906 / 936

ー閃光ー194

『あ、それと……そこに、望さんもいますよね?』 「え? あ、ああ……」  裕実の言葉にそう答える和也。 『望さんにも言ってほしいんですが……』  どうやら、さっき和也に注意されたことで裕実のパニックは大分落ち着いてきたようだ。今度は小さな声で話を始める。 「ああ、そこは大丈夫だ……スマホ、スピーカーにしてあるから、望にもこの会話聞こえてんじゃねぇかな?」 『そうだったんですか、なら、良かったです』  今度は少し明るめで、声の調子が少し大きくなったように思える。  何が裕実をそこまで動かしたのだろうか。それはまだ分からない。だが、次の瞬間、俺は裕実の言葉で目を見開いた。 『実はですね……ここに、雄介さんも来てるんですよ。そりゃ、そうですよねぇ……だって、望さんと雄介さんは結婚しているんですから。例え記憶の無い雄介さんでも、望さんのことが心配になるのは当然だと思いますから……』 「あ……」  まぁ、そう言われればその通りかもしれないのだが、俺の中はまだ複雑な気持ちのままだった。  もしこれが記憶のある普通の雄介なら、素直にそこに雄介がいることを喜んでいただろう。だが、今の雄介は記憶喪失の雄介だ。そういう風に区別してしまう自分にとっては、心の中は複雑なままだ。  電話の向こうにいる雄介は、さっきから何も発していないように思える。今の雄介は、この状況をどう思い、何を考えているのだろうか。  それに気になるのは、雄介が自ら三階のエレベーター乗り場まで来たのか、それとも裕実が促して連れてきたのかということだ。いや、そこは別に気にするべきところではないのだが。 「え? 本当にそこに雄介がいるのか?」 『ええ、いますよ。エレベーターのドアを心配そうに見つめているのですけどね』  裕実の言葉から、雄介がエレベーターの前で切なそうにエレベーターのドアを見つめている姿が頭に浮かぶ。  確かに、雄介の性格上、そういう行動を取るのだろう。  特に記憶のある雄介だったら、間違いなく心配そうな表情でエレベーターのドアを見つめているだろう。そこは記憶のある雄介と記憶のない雄介の間に違いはないのかもしれない。  よくよく考えてみると、記憶の無い雄介と記憶のある雄介では、性格に違いはないのかもしれない。  なぜ今更、そのことに気付いたのだろうか。  自分が記憶のある雄介と記憶のない雄介を勝手に区別してきたからだ。俺だけが、記憶の無い雄介のことを嫌っていただけなのかもしれない――そう、今気付いてしまったのだ。

ともだちにシェアしよう!