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ずっと見てたから知ってる 第1話 忘れらんねえくせに。 | 古池十和の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
ずっと見てたから知ってる
第1話 忘れらんねえくせに。
作者:
古池十和
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第1話 忘れらんねえくせに。
賢人
(
けんと
)
と俺の関係を聞かれたら、まずは「幼なじみ」と答え、気分によっては「俺より二コ年上で、兄の同級生」と付け加える。 「それって一番大事な紹介文が抜けてない?」 賢人が言う。 「じゃあ、部活の先輩」 「それもそうだけど、とっくに引退してるし」 「兄貴の元カレ」 「まーたこの子は、そういうことを。今はおまえが恋人だろ、こ・い・び・と」 賢人は笑いながら仰向けからうつ伏せの姿勢になった。その勢いで、ベッドが弾む。 「……じゃねえし」 「ほんと、可愛くないなあ」 そう言うなり手を伸ばしてきて、俺の髪をぐしゃぐしゃにした。 「やめろって」 俺の言葉に素直に手を止めた賢人は、はあ、とため息をついた。 「
柾
(
まさき
)
は、まだあの女のコと?」 「つきあってるよ」 「あっそ」 「今頃向こうもヤッてんじゃない? うち、今日は誰もいないから」 「ムカつく」 「誰に? 兄貴? 彼女?」 「
颯希
(
さつき
)
にだよ」 「は? 俺? なんで?」 賢人は俺の肩に手をかけ、それをとっかかりにして俺の上に乗り上げたかと思うと、裸の胸に頬を寄せるようにして頭を乗せてきた。 「なんで恋人って認めないんだ?」 「分かってるくせに」 「恋人でもない奴とこういうことするんだ、颯希は」 「いいかげんにしろっての」 俺は賢人の頭を押しやった。 「やだ。恋人って認めるまでこうしてる」 賢人が俺にしがみついてくる。 「うぜえよ」 「ひっど」 そう言いながらも、賢人は俺から身を剥がした。その隙に俺はベッドから抜け出す。 「もう帰るの? あいつ、ヤッてる最中なんだろ?」 俺はジーンズに足を通す。 「だから邪魔してやんの」 「うわ、最低。颯希くんたら性格悪ーい」 そんなことをするわけがないと分かってるくせに、悪ノリする賢人も大概だ、と心の中で毒づいたが、実際声に出したのは「じゃあ、またね」という短い挨拶だ。そして振り向きもせずに賢人の部屋を後にした。賢人だって俺の後ろ姿を目で追うことさえしていないに違いなかった。 ――何が恋人だよ。柾のこと忘れらんねえくせに。隙あらばヨリ戻したいくせに。 イライラしながら帰路につく。自分こそいいかげん割り切ればいいのにと思うが、どうしようもない。 幼なじみ。高校の部活では先輩後輩。そして、兄の元カレ。俺と賢人の関係の説明としてはどれも正解だが、一番正確に表現する言葉があるとしたら、「セフレ」だろう。俺は賢人が好きで、ようやくつきあえることになったけれど、賢人が本当に好きな相手は今でも兄の柾だ。賢人は俺に柾を重ね、俺は柾の身代わりでいいからと
縋
(
すが
)
りつき、お互いの傷を舐めあうようなセックスをしている。こんな関係を「恋人」とは呼ばない。そこまで考えたら自宅に着いた。賢人の家は俺の家から二〇メートルほどしか離れていないのだ。 ◇ ◇ ◇ 賢人が越してきたのは、彼が小学校に上がる年のことだ。引っ越し当日に、彼は母親と一緒にやってきた。「町会長さんに同じ小学校に通う子がいると聞いて」と挨拶する母親の陰に隠れるようにしていた賢人だったが、年の近い俺たち兄弟とはすぐに仲良くなった。けれど、まだ幼稚園に通ってた俺と、同じ小学校に通う柾とでは圧倒的に柾のほうが賢人といる時間は多くて、三人一緒というよりも、柾と賢人の小一コンビに必死にくっついて回る俺、という感じだったと思う。そのパワーバランスは俺が小学校に上がっても、中学生になっても変わらなかった。 二人の間に漂う雰囲気が変わったのは、彼らが高校受験を控えた中三の頃だったと思う。二人は同じ高校を志望していたのだけれど、賢人には安全圏のその高校は、柾にとっては高望みの学校で、だから、以前と違ってどこかギクシャクしている二人を見ても違和感を覚えなかった。結果的にその高校には順当に賢人だけが受かり、柾は第二志望のほうに入ることになった。 その日の夜、落ち込む柾の元に賢人がやってきた。落ちた奴のところに受かった奴が慰めに来たって逆効果じゃなかろうかとハラハラする俺を尻目に、柾はあっさり彼を二階の部屋に招き入れた。兄弟共用の部屋なのに、しばらく二人きりにしてくれと言われ、俺だけが追い出される形となった。それがおもしろくなくて、俺は階下に降りた振りをしつつも、こっそり廊下に居残って部屋のドアの前で中の様子を伺った。 「俺もそっちの高校行こうかな。二次募集とか、してないかな」 賢人の声が聞こえた。えっ、と思わず声が出そうになり、慌てて口を押さえた。 「そんなことされたら、逆に惨めだわ」 「だって、同じ高校に行こうって……でなきゃ志望校一緒にした意味ないじゃん。やっぱりそっちの高校で揃えればよかった」 「俺に合わせてランク下げてほしくなかったんだよ。俺がこういう結果になるのは半分分かってたようなもんだし別に落ち込んでねえよ。まあ、せっかく勉強教えてもらったのに悪かったとは思うけどさ。……それより、賢人はせっかく受かった進学校なんだから、蹴ったりするなよ?」 「俺は柾と一緒がいい」 「高校が違ったって大して変わんねえだろ。いつでも会える」 「でも、そっちは共学じゃん」 「関係ねえよ」 「柾、モテるから」 「モテねえし、そういう意味で言うなら男子校のほうが不安だっての」 「なんで」 「だって……そういう奴、多そうだろ。その、男のほうが好き、っていうか」 「そんなの偏見だよ。もし、万一あったとしても、俺には柾しかいないから」 「そういうこと、よく真顔で言えるよなあ」 「本当のことだし……。柾にも俺だけ見ててほしい」 「そんなの当たり前だっつーの」
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古池十和
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