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第6話 ニンゲンの名前

 猫の時は季節の時に交尾した。  子もいるはず。  だけど人の姿では初めてで、しかも雄同士も初めてだと言ったら、雄同士は色々と準備がいるのにとものすごく呆れられた。  けど、終いには笑って教えてくれた。  雄同士の交尾も、この身体の敏感なところも、触ってほしいところも。  それから「名前くらい呼んでくれ」って、名前を教えてくれた。  けいし。  さかきばら けいしっていうんやって。  榊原啓志。  それがわしの大事なこいつの名前。 「けいし……」 「あ、待って……ああ、あ、すご……」  雌に呼ばれて突っ込んで出して終わり。  猫の交尾なんてそんなもの。  比べてニンゲンの交尾ときたら、なんて楽しいんだと思う。  毛づくろいの時以上に体のあちこちをなめる。  そしたら啓志がかわいい声で啼く。  匂いの濃いところは啓志のいいところ。  舐めるだけじゃなくて、ちょっと甘噛みして引っ張ってもいい。  強く吸い付いたら、痕が残るって教わった。  啓志がわしのやって言うてるみたいで楽しい。  今は啓志のをしゃぶっている。  先から出てくる液体が、まずくていい匂い。  じゅるじゅるって水音をたてて舐めて吸って、横から甘噛みする。 「けいし…好き……好きや。なあ、もう、いれていい?」 「あ、と、ちょっと待って……まだちょっと、固い……」  わしがかわいがってる啓志の奥。  繋がるために啓志が自分で自分の穴を解す。  わしにさせろて言うたら、事故が怖いからまた今度、って言われた。  また今度て。  今度。  啓志の中ではこれで終わりやなくて、次があるんや。  嬉しくて、穴に突っ込んだ啓志の指の周りをなめる。 「ひゃぅ……あ、いい、まって……あ、あん……」 「なあ、啓志まだ? わし、痛となってきた」  わしの急所も熱くて硬くて熱をもっていて、痛くて、だらだらと水が出てる。 「堪え性ない猫やなあ……」  泣き言を言うたら、啓志がしゃぁないなあって顔をしてわしの頭を撫でてくれた。 「ちょっと、お前のかして。買い置きので入るかな……」  啓志がわしを引きはがして、枕のとこからなんか出してきた。  そんで優しい手でわしのを擦って、何かをかぶせた。 「なにこれ?」 「俺が腹を下さないための、大事なエチケット。人間には必要なんや。ほら、おいで」  啓志が仰向けに寝て、大きく足を開いた。 「啓志」 「ゆっくりな……ああ、そう……ん、上手……ぁああ、いい。きもちい……ゆっくり動いて……奥まで、全部いっぱいにして……」  ぐじゅぐじゅと音をたてて、わしが飲み込まれていく。  思いもよらない場所で繋がっているけど、気持ちいい。 「あ、あ、アカン……啓志、アカン、腰止まらへん……もっとええか? いっぱいしてええ?」 「ええよ……ええよ、おいで……」 「ああ、けいし、けいし……すき、めっちゃ好きや……啓志、好き……」 「ぅあ…あ……ああっ、いい、気持ちい……」  夢中で腰を振って、啓志が白いのこぼしても、かわいい声を上げてべそをかいても、止めんかった。  奥の奥で、精を吐き出す。  しあわせ。  めっちゃ幸せだ。  大きく息をついて全部吐き出して、ぐったりしてしまった啓志の上に乗っかる。  ピッタリ身体をくっつけて抱きしめた。  まだ繋がったままだけど、離れがたい。 「……なぁ」  だるそうに腕を動かして、啓志がわしを撫でる。 「うん」 「あいし」 「ん?」 「お前の名前。アイシアって、あの……お前が好きやった缶詰のメーカーやねん。そやし、そのまま名前にするのはなんかこう……ちょっとあれやから、ちゃんと名前にしよう」  めぐり逢うの逢に、志って啓志とお揃いの漢字。  それで、あいし。  啓志がそう言った。  わしの名前。  びりびりと雷みたいに何かが頭から尻尾の先に走った。  繋がった。  啓志が、わしの名前と意識して、わしの名前を呼んだ。  契りを交わして名をもらって、わしが体の奥から変わっていく。  わしが啓志のモノになって、啓志がわしのモンになった。  もう、夜が明けても迷子にはならない。  主の庭には兄弟がいるからいつでも帰れるし、ここに啓志がいるからわしはここでも過ごせる。 「あいし?」 「もっかい」 「へ?」 「もう覚えた。だから、今度はわしがお前を気持ちよくしたる」  繋がったままのところをゆすったら、中でわしのがここにいるよと主張した。

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