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第9話

あれから二人で信じられないくらい飲んだ。 橘さんが恐ろしく酒に強いのもあって、勧められるがままに飲んだ。 そして、久しぶりに二日酔いになっている。 「暁良、大丈夫か?」 「大丈夫…。ただの二日酔い。」 正直なところ、かなりキツい。 歳を取ったせいなのか、運動不足なのか…。 青褪めた顔で午前中を何とか乗り切ったものの、昼食を食べれる訳もなくフロアの休憩スペースでミネラルウォーターを飲み続けている。 俺に合わせてコンビニの弁当を食べる遼に申し訳ないと思うけど、会話をする余裕もない。 「どんだけ飲んだんだよ…。」 俺が酒に強いことを知ってる遼は顔を引き攣らせていた。 正直、覚えてないというか分からない。 「お疲れ。」 「あ…。お疲れ様です!」 「お前、何か顔青くないか?」 休憩スペースに橘さんが缶コーヒーを買いに来たので、慌ててミネラルウォーターを隠して笑顔を作った。 「二日酔いらしいですよ?」 けれど、そんな俺の行動も虚しく遼の言葉を聞いた橘さんが固まった。 明らかにばつが悪そうに目を逸らす。 「大丈夫ですからね!?ちゃんと仕事はできてますし!」 「あんまり無理するなよ…。」 何の説得力もないだろうが、必死で言い訳をした。 苦笑を浮かべたまま缶コーヒーを片手に橘さんは戻って行った。 "ごめん。調子に乗って飲ませ過ぎた。" 携帯に橘さんからメールが届いたのはそれからすぐだった。 (あぁ、やってしまった……) 自己管理不足。 酒に強いと思って自分を過信した俺が悪い。 決して橘さんは悪くないのに、サシで一緒に飲んだ後輩にこれだけ酒が残ってたら後味が悪いだろう。 久しぶりに猛省した。 午後の始業の合図と共に仕事を始めたが、この日は全く頭が回らず殆ど仕事は進まない。 背もたれにバフッと身体を預けて目を閉じる。 長時間勤務を想定してるのか、会社の椅子は無駄に質が良い。 「…おーい、高丘くーん…。」 自分の名前を呼ぶ小さな声を探すと、キャビネットから顔を覗かせる市村さんがいた。 「ッ!」 ぼんやりしていた頭が一気に覚醒する。 慌てて席を立ち、市村さんのもとへ駆け寄った。 「昨日、あれから大丈夫……じゃないね。」 俺の顔を見るやいなや、昨日の惨状を読み取って苦笑を浮かべる。 「見た目ほど大したことないので!橘さん、めちゃくちゃお酒強いですね…。市村さんの方こそ大丈夫でしたか?」 「お陰様で。それにしても、圭佑も高丘くんと飲むのがよっぽど楽しかったんだね〜。」 「え?」 「アイツが後輩にここまで飲ませるなんて珍しいから。」 ニヤニヤと微笑ましいものを見るかのような市村さんの眼差しに、何故か胸が痛くなった気がした。 「まぁ、今日は早く帰りなよ?」 コツンと額に当てられたスポーツドリンクのペットボトル。 買ったばかりなのか冷たくて気持ちいい。 「あげる。お大事に。」 その笑顔に心臓が跳ねる。 一体、何人の女の子がこの笑顔で惚れるんだろう。 「…ッ!…ありがとうございます…。」 パッと手を離されて落ちそうになるペットボトルを何とか受け止めて、慌てて言葉を絞り出した。 そんな俺を見て満足そうに市村さんは立ち去って行った。 「………。ア"ぁ〜……。」 よく分からない呻き声を出さずにはいられなかった。 高鳴る胸の鼓動も、顔の熱さも…。 全部、二日酔いのせいだ。 ペットボトルを額に当てると熱が引いていく。 落ち着かない心拍数の理由については考えなかった。 本能が"考えるな"と警鐘を鳴らしていたから。

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