やばい。頭がボーッとしてきた。このままじゃ……。 　口の中に入ってきた舌が前歯をなぞり、上顎をスリスリと擦る。いつもの荒々しいキスと同じはずなのに、今日はそれが一層エロく感じる。 　ガチッと歯がぶつかった途端、蒼空の唇が一瞬離れる。 「智暁」 　ふいに名前を呼ばれて、体の芯から何か熱いものが込み上げてくるような感覚に包まれる。 「あっ待っ、蒼空……やめっ……あっ」 「智暁、好きだよ。キスして」 「やっやっそらぁっ……」 「キスしながらイッて？」 「んッ……」 　噛みつくみたいに唇を塞がれた瞬間、快感が全身を支配する。溢れ出ていくそれを堪えることなんて不可能だった。 「んっあっ……あっ……」 　ビクンビクンと体が跳ね、迸る射精感が下半身を駆け抜ける。 「智暁……。よしよし、かわいいな」 「あっなんっ……で……」 　全身の力が抜けて、蒼空に覆いかぶさるように崩れ落ちてしまった。蒼空の声が耳に掛かり、快感の余韻が脳を支配する。 「智暁……。智暁、ほんとかわいい。キスして」 「やめ、離し、て……んぅ」 　体を起こそうとすると、蒼空の唇が俺の顔の上をまさぐるように動き唇を奪われる。蒼空は相変わらず俺の股間を握ったままで、その刺激がぼんやりとしていた脳みそを覚醒させる。 　負けたのか、俺は……。 「智暁、もっと……」 「あぁ、もう、離せって！」 　とてつもない敗北感と羞恥心に襲われて、俺はガバっと上体を起こした。蒼空は俺の下で目を丸くして驚いている。 「なになに、怒ったの？」 「うっ、うるせぇな！さっさと手拭けよ」 　萎びた自身と、いきり立ったまま俺の精液で濡れた蒼空のそれが敗者と勝者を示しているような気がして、俺は膝立ちのまま顔を背けた。 「あはは。智暁、顔真っ赤だよ。悔しい？」 　蒼空は楽しそうに笑いながら俺の下から這い出て立ち上がり、部屋の隅までティッシュを取りに行く。 「智暁の拭いてやろうか？」 「はぁ？！触んな！……っ？！」 　振り返ると、目の高さに蒼空のモノがあって俺は思わず仰け反った。 「何ビビってんだよ。かわいいな。大丈夫、今日は何もしないから。ほら、自分でやれよ」 　イカされた挙げ句、こんな風にからかわれて、俺の中で何かが吹っ切れた。 「蒼空っ」 「えっ、何？」 　布団の上に腰を下ろした蒼空に掴みかかると、そのまま体を押し倒す。 「智暁？もう終わり……」 「まだ蒼空がイッてない」 　何かを言おうとする唇を塞ぎ、蒼空のモノを握り込む。 「智暁っ」 　このまま手でイカせても俺の負けのままだ。それなら、俺は……。 「ち、智暁、待てって。そんなことっ」 「嫌なの？」 　その答えを聞く前に、俺は蒼空のそれを口に咥えた。 「嫌じゃないけどっ……でもっ」 　焦った声が聞けて、俺は心の中でほくそ笑む。 「あっ、やばいって。マジで今はヤバいから」 　さっき触れ合った俺の精液なのか、生臭い味が鼻に抜ける。美味しくもないし気分のいいものじゃなかったけど、なぜか嬉しかった。蒼空が俺で興奮していると思うとたまらなく満たされる気がした。 「ちっ、智暁離せって！マジヤバいからっ」 　頭を押し退けようとする蒼空の手を払い除けて、そのまま喉の奥限界まで咥え込み頭を上下に動かす。 「ん゛っ……」 「ヤバいヤバいって、ほんとっ、あっ、ストップ……！！」 　苦しくて目に涙が浮かぶ。それでも蒼空がイクまでやめるつもりはない。 「智暁ッ……あっ、だめっ、ああっ……あっ、そんなっ離せって」 　蒼空の腰がビクッと動く。 「ヤバいっ、イクっ……あぁ……」 　体温よりも熱い液体が口の中に放たれ、思ったよりも早く蒼空はイッた。俺を責めてた時は余裕ぶってたくせに、こいつも限界だったらしい。 　嬉しい。嬉しくて堪らない。 「智暁、智暁、何やってんだよ。出せって、おい」 　ごくりと喉を鳴らして蒼空を見上げると、汗で濡れた顔が困惑した表情を浮かべている。ネバネバしてて苦いけど、飲み込んでしまえば大したことはない。 「智暁……」 「飲んじゃった」 「お前何してんだよ……」 「……引いた？」 　蒼空はなぜか泣きそうなくらい顔を歪めて、ガバっと俺に抱き着いてきた。 　Tシャツの上からでもわかるくらい体が熱くて、汗で濡れているのがなんかエロい。 「あぁ、もう……！！馬鹿だろ、智暁」 「何で馬鹿なんだよ」 「だって可愛すぎて……俺もう我慢できなくなるだろ」 　蒼空の手が俺の腰をなぞる。 「や、蒼空、無理だよ？いきなりは」 「わかってるよ。でも覚悟しとけよ。明日から……」 「明日？！」 　慌てる俺に対して、蒼空は弾むように笑った。骨張った大きな手が俺の頬を優しく包む。 「智暁の負けは負けだからな。大丈夫、絶対無理はさせないから」 　いつもの蒼空の匂いがして、ふんわりと口付けされる。 　甘やかされるような優しいキス。なんか、こういうのもいいかも……。 　蒼空の腕に包まれながら、勝負に負けた悔しさが期待へと変わっていくのを感じていた。 完