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ムーンライズ 6

 目が覚めると、腰や背中がギシギシと痛んだ。のろのろと体を起こして、伸びをして……ハッとする。  ここ、何処? 明らかに自分の部屋ではない。  周りをぐるりと見回して気がつく。薄暗い倉庫みたいな壁に鉄が剥き出しの梁や柱。昨日は気が付かなかったけれど、高い壁の上の方に、飾り窓があって、そこにステンドグラスがはまっている。薄暗い倉庫の中に、色鮮やかな光が透けて、木製の床に綺麗な花模様が浮かび上がっていた。  綺麗だ……なんて、思ってる場合じゃない!  なんで俺はまだカフェにいるのか、それに寝てた! 酔ってたし。もし眠ってしまったとしても、普通お店の人に起こされるはずだ。  朝までぐっすり眠るなんてありえない。俺の体には、大きめの毛布、それに少し離れた所でストーブが橙色でチカチカと燃えている。  そのおかげで寒さに凍えることもなく、朝まで夢も見ないでぐっすりと眠ってしまったらしい。  外はもう明るいみたいだし。  耳を澄ませてみても、しんと静まり返っていて、人気もない。  誰もいない店に、知らない客の俺を1人残すなんて。  俺が泥棒とか不審者だったら、どうするんだ。  あのお兄さん……人が良いにも程がある。  ふと、目の前のローテーブルに、メモと鍵が置いてあるのに気がついた。 『荷物は20日以降なら、いつ運んでも大丈夫です。鍵は郵便受けに入れておいて下さい』  メモには電話番号と共に、そう書かれていた。  ……ん? 荷物、とは……?  しばらくの間、そのメモをジッと見つめて固まっていた。荷物……何の……。その時、ローテーブルの隅に立っているメニュー、その奥のカードが目に入って、ハッとした。じわじわと、昨夜の記憶が蘇って来る。  俺は、お兄さんに勢いのまま、働きたいと申し出た。面接をして欲しいと。  親切なお兄さんは怪しい酔っ払いの俺を邪険にはしなくて。  少し話をしましょう、と言ってくれた。  すごく聞き上手な人で。  俺は……。  朧げに、途切れ途切れに記憶が蘇ってくる。工場が潰れること、寮を出なきゃいけないこと、仕事と住む場所を探していて。とにかく一生懸命やります、とか、言った気がする。  覚えているのはそこまでだ。 雇って欲しいと頼むのに、酔っ払っていた挙句に、記憶も定かじゃ無いとか。  もう、終わったも同然だ。  働くどころか、客としてすら恥ずかしくてもう来られない。合わせる顔がないだろう。  そう、終わったはずだ。  そう思うのに、腑に落ちない、メモの文章。20日以降に荷物を運び込む……って。スマホを出して日付を確認する。今日は18日だ。

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