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ムーンライズ 8

 やっと寮に着いて、シャワーを浴びようと脱衣所に向かった。洗面所の鏡に映る自分の顔がチラリと目に入って、ギョッとした。  確かに昨日、居酒屋でもハイボールと一緒に塩辛いおつまみをたくさん食べた。  だけど、ただ浮腫んでいるとはどうしても思えない。  鏡を覗き込んで、まじまじと自分の顔を見る。  その瞼は腫れて重く目に被さっていた。  ……嘘だろ、俺、昨日泣いたの?  さらに課題が増えてしまったじゃないか。  シャワーを浴びてさっぱりしても、頭はこんがらがったままだ。歩きながら考えた謝罪と恥ずかしい事リストにさらに、泣いた事まで加わってしまった。  泣いたのなんて、ばあちゃんの葬式以来だ。俺、まさか泣いてみっともなく縋ったり、してないよな? それでしつこく食い下がって、しょうがなく受け入れて貰えたとか……だったらどうしよう。  そわそわして落ち着かなくて、畳の上に置いたスマホの周りを、うろうろと歩き回る。  どうしよう、どうしよう。 「はい。ムーンライズです」  嫌なことを早く終えてしまおうと、もう勢いに任せて電話をかけてみた。 「あ、あの。すみません。あの、昨日お世話になった澤部っていいます」 「あー、昨日の夜ですか?」 「はい、」 「あー、そうなんですね。僕、昼のスタッフでまだ聞いてなくて」  確かに、電話の向こうの声は昨日のお兄さんより若く感じるし、別の人だった。それに、電話はお店用のスマホの番号だったらしい。 「なにか、伝えておきましょうか?」 「あ、いえ、大丈夫です」 「夕方6時以降なら、昨日のスタッフがいますから」 「わかりました、すみません」 「いえ……あ、もしかしてこの番号聞いてるってことは、新しいスタッフさんですか?」 「え、あー」  そうです、とは簡単に答えられる訳がない。自分でもそうなのかよく分からないんだから。 「よかった、やっと決まったんだ」  電話の相手は、なんだか嬉しそうに答える。勝手に話が進んでしまって、採用されたのか定かじゃないって、言えなくなってしまう。 「じゃ、きっとまた会えますね。とりあえず、夕方にまたかけて下さい。じゃ」  電話の奥で人の声が聞こえて、早口で畳み掛けると、電話は急に終わってしまった。  せっかく勇気をだして電話をしたけれど。また一つ課題を増やしてしまっただけだった。  俺って、スタッフなんだろうか。

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