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サンキャッチャー 2

「乙都くん、寝るってさっき言ってたのに」 「大丈夫です、目が覚めました」  与一さんを自分のベッドに寝かせて、毛布も布団も掛けた。さっきと同じように、体に触れて部屋まで運ぶ間もずっと、透けてくる体温は俺よりも随分と低く感じた。 「寒くないですか?」 「ありがとう、大丈夫」 「じゃあ俺」  そう言って立ち上がろうとしたら、ひんやりとした手にそっと手首を掴まれた。 「乙都くん……」  小さく名前を呼ぶ。それ以上何も言わなくたって、何を言いたいのかは目が物語っていた。 「大丈夫です、俺どこにも行かないです」 「……ごめんね、今すぐ話せればよかったんだけど」  ほとんど閉じそうなまぶたを何度も無理やり開いて与一さんは言葉を紡ぐ。 「大丈夫ですって」  ベッドの下にしゃがんで与一さんの手を握った。与一さんって、こんなふうに自分の気持ちを出す人だったんだ。  きっと年上だけど、なんだか可愛らしいなって気持ちが湧いてきて、心が凪いでいく。 「寝てください」  俺が髪に触れると、与一さんは目を閉じた。その顔が安心しているように見えて、ホッとする。これは、満足感に似ている。じんわりと温かくなっていく気持ちが、自分でも不思議で首を傾げたくなる。  つい三十分前まで何もかもが覆ってしまうような怖さで心が落ち着かなくて、罪悪感とか恐怖とか心配とか、いろんなもので頭がパンクしそうだったのに。  今、与一さんの側にいたって怖いとは思わない。  与一さんは出会った時からいつも穏やかで優しくて、だけどなんだか掴みどころがなくて。どこか、扉が閉じているような。俺には超えられない壁があるように感じていた。そこへは踏み込んじゃいけない気がしていた。こんなに良くしてくれているし、俺はただの従業員だし、それ以上望むのは贅沢だって分かっているけど。  だけど、今その扉が少し開いたような気がして、嬉しい。  与一さんの寝顔を眺めながら、何を質問しようかと考えていた。たくさん聞きたいことはあったはずなのに。  上手くまとまりそうになくて、結局思うのはただひとつだった。  与一さんの話が聞きたい。与一さんの人生を、物語を。  与一さんの瞼が揺れて、知らずに力を込めて手を握っていたとハッとして引っ込めた。  ふと思い出して、与一さんを起こさないようにそっと動くと、アウターのポケットから、小さな紙袋を取り出した。  なかなかムーンライズに足が向かなくて、駅の周りをたくさん歩いた。よく行く日の出商店街を通り抜けて裏路地を歩いていると、小さな雑貨屋を見つけた。窓辺に太陽の光をきらきらと跳ね返すガラス玉がたくさん連なっていた。気になってお店に入ってみると、ミラーボールみたいに細かくカッティングされたクリスタルガラスが太陽に透けて輝いていた。サンキャッチャーって言うらしい。説明書きに、太陽の光で陽の気を呼び込む。と書いてあった。  まだ夜の光景で頭がいっぱいだった俺は、陽の気、に引かれてすぐに購入を決めたのだった。  紙袋から、テグスに通されたクリスタルガラスを取り出す。  与一さんに太陽の光が当たらないように気をつけて少しカーテンを開いた。テグスをカーテンレールに結びつけると、途端に部屋に虹色の小さなプリズムがたくさん揺れ始める。  花びらみたいにゆらゆらと揺れて小さな虹が踊る。  あんまり綺麗で思わずため息を漏らした時、そのひとつが与一さんの顔の側をちらちらと行ったり来たりしているのに気がついて、慌ててカーテンの向こうに閉じ込めた。  そっと与一さんの側にしゃがみ込むと、どこにも怪我や傷がないか、確認する。大丈夫みたいだ。  さっきのステンドグラスの時もだったけど、窓から透ける光くらいじゃ、何ともないのかもしれない。  それでも心配になって、じっと与一さんの顔を観察してみる。元の通りの、白くて滑らかな肌だ。  ふいに陽の気、ってなんだろうって、なんだか可笑しくなる。  与一さんは穏やかな顔で眠っている。彼は本当に、陽とは反対の、闇の生き物なんだろうか。

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