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サンキャッチャー 1
よく晴れた昼間なのに、カーテンを閉め切った部屋。眠気と戦いながら、側で感じる、ゆったりとした寝息。
俺のベッドで眠る与一さんをみつめながら、あくびをひとつ噛み殺した。
ステンドグラスから透ける陽光に照らされた与一さんを抱えた後の妙な緊張感と気まずさは、突然破られた。
「乙都くん、あったかいね」
「そう……ですか」
ふにゃっと柔らかい笑顔でみつめられて、面食らってしまう。
「あったかくて気持ちいい」
そう言いながら、与一さんは目を閉じて……すう、すう、と整った呼吸を始めた。
「えっ、与一さん寝てます?」
俺が無理に抱き抱えたはずだったのに、いつのまにか寄り掛かられる体勢になっていた。
「え? 与一さん?」
俺は焦って体をゆすった。確かに眠っているところを起こしてしまったけれど、だからってこの状況で眠れるなんて。
「あ、ごめん、眠くて」
与一さんはそう言うと、目を瞬いてなんとかこじ開けて俺を見た。
「ごめんね」
そう言って俺から少し離れて真っ直ぐに立つと手の甲で目元を擦る。またステンドグラスの花模様が与一さんの頬に散って、どきりと心臓が跳ねた。
「こっちに」
ぼーっとしたままの与一さんの手首を掴んで、陽の当たらないフロアの奥に促した。
「乙都くん。なんでも聞いていいよ、話すから」
与一さんは俺を見て、困ったような顔でそう言う。
「あの……昨日、ごめんなさい。スマホ忘れて、どうしても取りに戻らないといけなくて……それで……俺が約束破ったから」
「それは、いいんだよ。しょうがないから」
与一さんは俺の頭に手のひらを乗せて、ぽんぽん、と軽く叩いた。そうだ、元はと言えば全部俺が招いたことだ。
忘れ物なんてしなきゃ。
「乙都くん。僕が怖くない?」
「怖がった方が、いいんですか?」
質問で返されるとは思っていなかったのか、与一さんは目を丸くした。
「ああ、乙都くんだなー」
そう言って、目尻を下げる。
だけど本当に、今目の前にいる与一さんは、怖くなんかない。
与一さんはふうっと息をついて、近くにあったベンチにどさっと体を投げ出した。
「緊張してたんだ」
「えっ? 与一さんが?」
「うん」
「どうしてですか?」
「乙都くんがもう戻って来ないんじゃないかと思って……怖いし、関わりたくないでしょ?」
「それは……」
ほんとは、俺だって頭の隅っこで少しくらいは、考えた。胃の辺りが罪悪感でざわざわとする。
「いいんだよ……でもね、今さっき嬉しかった。庇ってくれて」
そう言って笑う与一さんは、いつもと何も変わらない。どこか寂しげで、優しい笑顔。
「あのさ、乙都くん。ごめんね、ほんとになんでも話すから。でも今は眠くて……抗えないんだ」
与一さんはそう言いながら、硬いベンチで下がりそうな瞼と格闘している。
「この時間は、眠らなきゃいけなくて……だから」
「分かりました、寝てください」
「うん……ごめんね」
「や、そんなカチカチのベンチじゃなくて、俺の部屋まで歩けます? ベッド行きましょう」
「や、大丈夫」
そう言う与一さんの腕を肩にかけて体を支えると、有無をいわせず無理やり立たせた。さっきも思ったけれど、俺と背丈はほとんど変わらないのに、すごく軽く感じる。
「いいよ、悪いから」
「何言ってるんですか、歩いてください。頑張って」
俺が強引に腰を抱いて促すと、与一さんはなんだか楽しそうにケラケラと笑い出した。
「笑ってる場合なんですか? 寝そうなんでしょ? 階段落ちないでください、手すり持って」
柄にもなく強引に振る舞っている自分がなんだか可笑しくて、与一さんもきっとそれで笑ってるんだなって、なんとなく察しがついた。
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