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第94話
「なんてバカなことを・・・とまでは言えないんだよな」
ユキ先生は頭を抱えた。
ミサキは大人しく座っている。
ここはユキ先生のオフィスだ。
ミサキは先日の出来事を話したのだ。
シンとシンのベータと、そしてアキラとのことを。
カウンセリングにミサキは来ていた。
ユキ先生はオメガ達のカウンセリングはまだ行っているが、アルファの【カウンセリング】は今はシンだけだ。
おそらくこの部屋の奥にあるベッドルームでシンの相手をしているのは想像がついた。
「キョウ君も、いつかは知らなければならなかったことだ。シンだけはいつまでも隠し通せると思ってたけどね」
ユキ先生はため息をつく。
オメガは歳をとっても美しい。
もちろん先生の場合は顔半分だけだが。
先生の顔の半分は相変わらず美しく、もう半分は悪鬼のようだった。
「・・・オレを怒らないの?」
ミサキは言った。
「お前を怒れるオメガはいないだろ」
先生は淡々と言った。
「オレたちだって復讐したいんだ」
先生の声にミサキは微笑んだ。
「いけないことだ。でも。お前の気持ちをオレたちは分かりすぎてしまう。オレは今日の朝までシンとセックスしてた。そのオレもキョウ君からは酷さではシンと同じだろうよ」
先生は辛そうだった。
先生がキョウというあのベータが好きなのだと分かって、ミサキは嫉妬した。
だけど、ユキ先生が自分の味方なのは嬉しかった。
「浮気が発覚してても次の日にはオレを抱きにくる、ていうか、今はあのベータに一切触れるわけにはいかないし、理性を無くして殺しちゃいけないから仕方ないんだろうけど。まあ、えげつない抱き方で、久々にこっちが悲鳴をあげたよ」
先生はいつも笑ったように引きつった唇と同じ角度に綺麗な方の唇を吊り上げてみせた。
アキラもいつも以上に執拗だった。
オメガが無理ということはほとんどないが、ミサキも音を上げるのは久しぶりだった。
唇を指で何度もなぞられながらイカされ続けた。
アキラがキスをしたがってるのは知ってるが、それは無視し続けている。
そんなのアキラの勝手だからだ。
そのくせミサキの喉まで犯すくせに。
「・・・アキラが憎い?」
先生はニュートラルに聞いてきた。
何の意図も被せずに。
「はい」
ミサキは素直に答える。
だって。
アキラはミサキを裏切った。
二人で過ごした寮からの学校への道も。
本の話も。
折り紙も。
「最近は書いてないの?物語」
先生はサラリとまた聞く。
ミサキは不意に黙る。
長く書いてない。
本も読んでない。
それに気付いたからだ
仕事が忙しいせいにしてたが、それは確かにおかしい。
物語だけがミサキの世界だったはずだから。
「壊れないで、ミサキ。何をしてもオレはお前を責めないよ。でも。お前は少し弱ってる」
先生の声は優しかった。
ミサキは顔を覆った。
復讐で舞い上がっていた気持ちが足場がないモノだと分かる瞬間だった。
「ミサキはアルファについてどれくらい知ってる?」
突然先生が話題を変えた。
その突然さにミサキは眉を潜める。
「ミサキはそろそろ知っておいた方が良いと思って。オレはキョウ君のために良かれと思って黙ってた結果キョウ君は最悪なタイミングで秘密を知ったしね。オレはカウンセラーだから守秘義務もあるんだけど。でも、もう知ったことか」
先生は開き直ったように言う。
ミサキはますますわからない。
先生は困ったように笑った。
「ミサキがこの話をどうとらえるかはミサキの好きにするといい」
そして先生は話始めた。
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