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第95話

「アルファも元々はベータだった。それはわかるね?」 ユキ先生の言葉にミサキは頷く。 そう、 オメガもアルファも元々ベータだ。 普通の少年だった。 それが突然変異する。 変異するまで誰にも分からないのだ。 誰がオメガになるかベータになるのかは。 「オメガは1年程の時間をかけて徐々にオメガになっていく。大体学校の定期検診でわかる。それからヒートが来ないためのカプセルを埋め込まれ、保護される、これは当然、知ってるよね」 ユキ先生の言葉に複雑な顔でミサキはまた頷く。 保護。 アルファに選別されるための学園に閉じ込められること。 シンはその最悪な例だけど、身体は変化してもまだ子供でしかないオメガ達は基本的にアルファ達の手中に落とされることになる。 精神的にはまだ子供なオメガ達はアルファに蹂躙される。 オメガの肉体の疼きだけでも理解が追いついていないのに、アルファ達に捕まえられ、番にされる。 あれを保護というのか ユキ先生が苦く笑ったから、先生もそう思ったのだろう。 「そして、アルファはオメガと違う。アルファはある日突然急激に変化する。ひと月で全く異なる生き物になる。学ばなくても知識を持ち、独自の種としての記憶というものも存在して、何より人間とは全く異なる身体を持つ。何故オメガがアルファとの子供をつくれるのか、まだ化学的には解明されていないし、何より、何故アルファとオメガから生まれる子供のほとんどがベータなのかもわかっていないんだ」 ユキ先生のこの説明も知ってる。 アルファは突然アルファになる。 大概が高熱で倒れて運ばれてくる。 異様な熱だ。 それこそ生きているのがおかしいほどの。 それでアルファになったのだとわかる。 その時点でアルファ達は専門の施設に連れられるので誰もその後のことは知らない。 知ってるのはそれまでは普通の少年だったのに、ひと月後には全く違うアルファという生き物になっている、ということだけだ。 アルファ達がそのひと月でどう変わるのかは誰も知らない。 知ってるものがいたとしても口にされない アルファ達も言わない。 記録にものこらない。 噂話で、人知れず廃屋に住んでいた天涯孤独の少年がアルファになったが、誰も彼の存在を知らないので、「回収」されることはなかった。 その廃屋に入った者が見つけたのは大きな、そう、一部屋を塞ぐほとの繭だった。 という都市伝説はあるけれど、公式に否定されてるし、何よりアルファが怖いので本当にこっそりとしか語られてない。 ミサキも「繭はないだろ」と思ってる。 繭、つまりサナギってことだ。 そんな、虫じゃないんだし。 「アルファは人間だったんだよ。それこそ普通のね。それはわかるね?」 ユキ先生の言葉のしつこさにミサキは首を傾げる。 そんな当たり前のこと知ってる。 「アルファになるのは11歳の少年なら誰にでも有り得ることでもある。そしてね、それは本当にどんな少年にも起こることなんだ」 ユキ先生はくどすぎた。 眉をひそめるミサキに先生は困ったように笑った。 「アキラもそんな11歳の少年だった。アルファになり得る可能性がある全ての少年の1人。でも、アキラはね、生まれつきの障害で歩いたことも無ければ、ほとんど外に出たこともなかったんだよ。アルファになるまで」 先生の言葉は衝撃的だった。 アキラ、が? 特殊なアルファ。 アキラは抑制剤を使っていた時期もあった。 それでもアキラのアルファとしての能力は抑制出来なかった。 優秀なアルファ。 アルファ達が恐れるアルファ。 アルファの中でも美しく大きな身体を持つアルファ。 そのアキラが? 「アキラがミサキと初めて会ったのは助けられた日だと思ってただろ」 先生の声がなんだか滲むように聞こえる。 驚きが強すぎて。 でも、それはさらに驚く言葉へと続く。 「アキラはずっとミサキのことを知ってたよ。アキラの家の窓から通学するミサキを、アキラはずっと見ていたんだ。僅かに動く指で、ベットの上で折り紙を折りながらね」 ユキ先生の声は。 ぼやけて聞こえるのに。 明瞭だった。

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