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第2話
金は天下の回りものという。
だから自分がこの街で全財産を騙し取られるのは運命だったのではないかとピジョンは諦念する。
恥をさらした店の敷居を再び跨ぐ勇気がどうしてもでず、そわそわと落ち着きない素振りで目を彷徨わせて、例の看板を見てからこっちずっと胸に秘めていた疑問を述べる。
「ねえスワロー、未婚の処女でも母乳がでるってどういう現象だろう?」
「女体の神秘」
「女体の」
「想像妊娠じゃね?」
「身体が勘違いして母乳をだすってこと?」
「Fカップ級のホルスタインがうじゃうじゃいたら奇跡が起きたっておかしかねえ」
「でもさ……母乳だよ?でるかな?がんばり次第でどうにかなるもんかな?」
「乳からガムシロップよかありだろ」
「ホワイトなお店なのかな……」
「童貞には逆立ちしてもわかんねーことが世の中にゃたくさんある、勉強になったなオニイチャン」
コイツがお兄ちゃんと呼ぶときは大抵俺を馬鹿にしてる時だ。よりにもよって弟に訊いた俺が馬鹿だった、人が真剣に悩んでるのに真面目に答える気などさらさらないのだから。
ふてくされるピジョンをよそにスワローはあたりをきょろきょろ見回している。
ネオンで飾り立てた店の外観をざっと把握し、二階に並んだ窓へ何かを測るような視線を投げる。
一階は酒場、二階は宿屋として運営しているようだ。酔っ払った男女が階段をすぐ上がってすぐしけこめる、もしくは交渉成立した娼婦や男娼を即座に連れ込めるのが売りの、歓楽街によくある形式の店だ。
「なにしてるの?」
「別に。テメェこそ何してんだ?とっとと入れよ」
「う……」
「手伝ってやる」
「どわっ!」
スワローが機嫌悪く舌打ちし、敷居の前で棒立ちになる兄の尻を蹴っ飛ばす。
前のめりにたたらを踏んで来店、物珍しげな客の視線を一身に集める。
兄の後から威風堂々、真打登場と満を持して歩み入るスワロー。スイングドアを両手で開け放ち、肩で風切る大股で闊歩してくる。
颯爽と店内を突っ切るスワローにポーカーや馬鹿話に興じる客の何人かが陶然とため息をもらす。
掃き溜めに燕の如し美しさに見とれたのだ。
ピジョンは弟の影に隠れ背中にはりつき、常より薄い存在感をさらに消して追随する。
「見てる見てるよ……」
「弟の影に隠れて恥ずかしくねえのかよ、ちったァしゃんとしろ、背筋を伸ばせ」
「注目が痛い……」
目的のテーブルはすぐそこだ。木製の円卓で一杯きこしめす男、琥珀色のウィスキーがグラスにたゆたう。悪趣味なシャツを着崩し、胸に髑髏の刺青を入れた三十路がらみのチンピラだ。不健康にこけた頬に品性の卑しさが滲み出ている。子どもをだまくらかして小遣いを巻き上げるなど朝飯前のイカサマ師だ。
強烈な整髪料の匂いが漂って胸が悪くなる。
テーブルのド真ん前に仁王立ち、スワローはおどけて挨拶する。
「ハローハロルド」
「あァん?」
「うちの兄貴が世話になったみてぇじゃんか」
完全に上から目線だ。見守ってるピジョンの方がはらはらする。
既に酔いが回っていい感じにできあがってるのか、アルコールに濁った眼球が斜め上に動いて記憶をさぐる。
「お前の兄貴……?」
「ポーカーで一席ぶってしこたま可愛がってくれたろ?その礼にきたってわけさ」
スワローが尊大に顎をしゃくり、首を振って抗うピジョンを前に蹴りだす。
敵前逃亡は挫折した。ピジョンは気まずそうに俯き、蚊の鳴くような声で挨拶する。
「こ、こんにちは……二度目まして」
語尾は不安そうな疑問形だ。
ピジョンを見て漸く思い出した男が「ああ、さっきの……」と呟く。
「ピ……ピ……ピングーだっけ」
「飛べない鳥はただの鶏肉。俺はスワロー、コイツはピジョンってんだ」
「ふたりあわせてスワッピング兄弟か。親は何考えてやがんだ?」
「母さんに訊いてくれ」
男が露骨に馬鹿にして高笑い、スワローはいっかな動じず鼻を鳴らす。
名前を言った際の反応はなれっこだ、皆判を押したように吹きだすかあっけにとられる。ピジョンは謙虚に顔を赤くしている、多感な思春期故に名前をからかわれ恥ずかしいのだ。
スワローは全く意に介さず開き直って続ける。
「シケた店の片隅で寂しく一人酒か。お仲間は帰ったの?」
わざと声を張り上げもったいぶって店内を見渡す。
「シケた店」呼ばわりされ、カウンター向こうのマスターが仏頂面になる。ピジョンが袖を引っ張って諫めるのを振りほどき、許可も得ず対面の椅子を引いてどっかと腰掛ける。
長い脚を組んでふんぞり返るスワローと、椅子の背もたれを掴んではらはらするピジョンを見比べ、ハロルドはウィスキーで口を湿す。
「で?こっちのボウズがとられたモンをわざわざ取り返しにきたのか?麗しい兄弟愛だな、涙がちょちょぎれるぜ。後ろで突っ立ってる兄貴はだんまりか?弟にケツ拭かせて恥ずかしくねえのかよ?」
反省の素振りは全くない。
ピジョンの全財産を巻き上げた事をちっとも悪いと思ってない、むしろ騙される方が悪いのだと言わんばかりの傲慢な態度。背凭れを掴む手が怒りに震える。
「ぜ、全部あんたのせいじゃないか。親切ぶって近付いて……みんなして取り囲んで、グルになってハメといて、なにをいまさら」
「見抜けねェ馬鹿が悪い。いい人生勉強になったろ?授業料はまけてやる」
「お金とタグ返してください」
「しつけえな、諦めろ」
「大事なものなんです」
一生懸命ためこんだんだ。
靴を泥だらけにして、手をオイル塗れにして、一日一日コツコツとがんばったんだ。
ピジョンはありったけの勇気を振り絞ってハロルドを睨み据える。
大人の男に意見するのは正直怖い。レイヴンの一件を除いても、小さい頃から母の客に小突かれてきた恐怖が身に染み付いてるが、それを負けん気で克服して訴える。
「あれは……俺の金だ」
「はっ、じゃあなんで鍵付けて金庫にしまっとかなかったんだ?誤解すんなよ、別に強盗したんじゃねぇ、お前がテーブルにのっけたんだ。いいかボウズ、俺達がやってんのは大人の遊びだ、賭け金なしの子供だましたァわけが違う。お前だってバカヅキではしゃいでたろ、忘れたとは言わせねーぜ、みんなにおだてられてテーブルの上で今にも踊りだしそうだった」
「…………っ」
ピジョンが恥じ入って赤面する。
ハロルドがにやけて卓上に身を乗り出し、懐から出した札びらでピジョンの頬べたをひっぱたく。
「世間知らずの甘ちゃんはママんとこに泣き帰りな。金が惜しけりゃカラダで取り返しゃいい。何ならいい客紹介してやるぜ?」
野卑に節くれだった手がピジョンの手首を掴んで引き寄せる。
蹴躓いて倒れ込むピジョン、その細腰を支えいやらしく手を這わす。
「ちょ、なにす、やめ」
「ハードなSM好きの知り合いがいるんだ。ガキをいじめなきゃ勃たねェんだとさ。ふんじばって鞭打って突っこんで、仕上げにクソを食わせるんだ。それを眺めて絶頂するんだと」
耳の後ろで囁かれた言葉のおぞましさに産毛が逆立ち、背筋が強張る。
「ああ、色は白ェな。ウブい反応……初物?毛も薄い」
出荷する家畜の健康状態を調べるように腰と内腿をさすり、シャツをめくって裏表を点検していく。
他の客が面白がってこちらを見ているがだれも助けてくれない。大半が酔っ払っており、かえって口笛を吹いて囃し立てる始末だ。タチが悪い店にはタチが悪い客が集う。
ピジョンは目一杯身をよじって暴れる、両手を突っ張って男を離そうとする、デリケートな内腿をくりかえしなでさすられて腰の奥がじれったく疼く。
ハロルドがなれなれしくピジョンを抱き寄せ、大股開きの間に座らせる。
「お、目ェ潤ませて感じてんのか。顔も赤くなってきた、感度は良好だな」
「はなせよ、そっちの商売はやってないって……俺は金を取り戻しにきただけ……見てないで助けてスワロー!」
ハロルドの体と背中が密着する。案外と鍛え抜かれて逞しい。
14歳にもなって男の膝に座らされ、恥ずかしさで死にそうなピジョンに野次馬が容赦なく失笑を浴びせる。
男の手が体の裏表を無遠慮に這い回るのが最悪に気持ち悪い。
膨張する生理的嫌悪と反比例し、弟に調教されて過敏な体が勝手に高まっていく。
「あっ、あっ」
「ついさっき知り合った野郎の手でめちゃくちゃにされて感じてンの?弟の前で?」
「ちが……もうやめて、くださ……」
やっぱりこなけりゃよかった、お金のことはすっぱり諦めて泣き寝入りすべきだった、わざわざ処女を捨てに帰ってきたようなものだ。
男はピジョンに劣情している。最初は面白半分、冗談半分だった。性欲よりはむしろ、この馬鹿正直な少年をからかって身の程を教えるのが目的だった。
ピジョンは嗜虐心をそそる顔をしている。どこにでもいる普通の少年だが、泣き顔は妙に色っぽくサディスティックな悪戯心をくすぐる。
「ここお店、人いっぱい見てっ、るからっ!お金、俺のお金かえして、よっ!」
ビクビクと腰が震える。目尻を朱に染め、半開きの口からしまりなく涎を垂らして悶える痴態の淫乱さにハロルドの鼻息も次第に荒くなっていく。
テーブルのへりを掴んで前屈みになり、シャツの内側で蠢く手がもたらす快楽に翻弄されるピジョン。行為の中断を哀訴しながら金の返還を要求する二律背反が雄の征服欲を駆り立てる。
鈍い衝撃を伴う轟音が爆ぜ、グラスが倒れて中身が広がる。
店内の喝采が止み、不安定な沈黙が訪れる。
卓上を濡らす琥珀色のウィスキーが床に水たまりを広げていく。
椅子に傲然とふんぞり返ったスワローが、腕組みしたまま片足を投げ出したのだ。
「もう一回しようぜ」
「何?」
「兄貴だけお楽しみはずりぃ。俺とも遊んでくれよ」
面食らうハロルドに嫣然と微笑みかける。愛撫が中断され、なんとか助かったピジョンが呼吸を荒げてスワローを見詰める。モッズコートの下のシャツは乱れてはだけ、ずりおちたスラックスは腰骨に辛うじて引っかかりボクサーパンツを覗かせて、痩せた腹筋が露出している。
スワローは椅子の背凭れに深く腰掛け、テーブルの上で悠々と足を組む。自信が溢れる動作。
「アンタの言い分はごもっとも、いやすっかり恐れ入ったね。俺の小鳩はとんだ世間知らずの甘ちゃんでな、アンタにお宝を総取りされたって弟のこの俺様に泣き付いてきやがったんだ。ポーカーで巻き上げられたモンはポーカーで取り返すのが流儀、べそかいたって後の祭りだ」
「お、お前が勝手に引っ張ってきたんじゃないか……!」
「甘ちゃんはガムシロップの涙ながしてほっぺたぺろぺろしてな」
いついかなる時も兄を貶すのは忘れずハロルドに勝負をふっかけ、年若いながらスリルを愉しむ勝負師の微笑みを見せる。
「俺が勝ったらコイツのもんを返してもらう。どうだ?」
悪い条件じゃねえだろうと挑発的な流し目をくれるスワローと卓を隔て向き合い、ハロルドが念を押す。
「こっちが勝ったら?」
相手の視線を絡めとって微笑を深め、この堕落した世界ごと抱きこむよう両手を広げる。
「俺達を好きにしな」
「複数形……!?」
聞いてないぞ。
弟の突飛な提案に取り乱すピジョンを鋭い眼光で黙らせ、スワローは得々とうそぶく。
「テーブルお立ち台にストリップショーでも右と左で挟んで同時フェラでもお気に召すままだ、それで足りなきゃ腎臓でも何でもバラ売りして元とんな。一応言っとくと病気はもってねーぜ」
「抱き合わせ販売か。兄弟でウリしてんの?」
「儲かるんでな」
「してないしてないよっあ!?」
くそ、スワローがもっともらしいデマふかすから完全に男娼と誤解されてる!
ハロルドが束の間考え込み、膝の間に落とし込んだピジョンの体をほぼ無意識にまさぐりだす。
「っあ、や、ぅく……!」
人さし指でへその窪みをほじくられ、腰の奥でとろ火が燃える。
こんな声だしたくない嫌なのに人前で好き放題いじくられてスワローが冷めきった目で元はと言えばお前が言いだしたのに何で助けてくれないんだ恩知らず!ハロルドは手を止めず、抱き上げたピジョンを貪りながら応じる。
「……のった」
「話がわかるな」
「た、たすけてスワロー……ほっとかないで止めてよ……!」
「すっこんでろ。これからって時に水をさすなよ」
合意が成立、カードが配られる。ピジョンはモッズコートの中で体を蒸らしハロルドの愛撫が与える快感に悶え狂い、どうにか拘束を振りほどいて逃げ出そうとするが、腰を抱かれて引き戻されるくりかえし。
「人質はじっとしてな」
「うあ、いや、っあ」
暴れた分だけお仕置きの責めは激しさを増し、ズボンがずりさがって下着が見える範囲が広がって恥をかくので、ピジョンはもうどうすることもできずにいる。
店中の客が卓を取り囲みゲームの成り行きを見物する、スワローとハロルドの間でカードが行き交い扇状に手札を披露するたび歓声が上がる、背後に回った物好きな野次馬がピジョンをのぞきこんでは髪の毛を引っ張り頬ぺたを叩きちょっかいをかけてゆく。
「ハロルドに可愛がってもらえてよかったなガキ」
「コイツはこのへんじゃ有名なギャンブラーなんだ、金がかかると見境がねえ。目ェつけられちまったのが運の尽きってな」
「ゴールデンフィンガーをとくとご堪能あれだ」
「さあ、顔上げて弟を応援しな。クライマックスだぜ」
「あぅぐっ、揺すらないで、膝があたっ……ふぁ」
ハロルドが意地悪く片膝を揺すり立て、股間の膨らみを圧迫する。
リズミカルに送り込まれる甘い刺激にも増して、手札を読むのに夢中で見向きもしない弟の薄情さと、ゲームの片手間に慰み者にされる現状がやるせない。
のこのこ戻ってきたのが間違いだった、どうせこうなるに決まってる、俺はやることなすこと裏目にでる星のもとに生まれたんだ、生まれた時から貧乏くじを引きまくる人生なんだ。
「足開けよ」
「んん゛っ……!」
ハロルドが耳の後ろで低く脅す。
正面のスワローに見せつけ動揺誘う魂胆か、首を振って必死に拒みぬくピジョンの尻に熱い剛直を押しあてしこり始めた乳首をシャツ越しに揉み搾る。
大勢の野次馬ににやつきつつ視姦される恥辱に肌が燃えたつ。
「フルハウス」
スワローが右手を滑らせカードを綺麗な扇状に開く。
機を見るに敏な玄人はだしの攻めの一手に観衆がどよめく。
スワローは引きが強い。勝利の女神に愛されているという表現は誇張じゃない。思いきりよくカードを切ってはレイズを重ねていく。
上がり調子のスワローに露骨に舌打ち、おもむろに膝を突き上げる。
「ちっミスった」
「っあ、ふあ、ひうっ!?」
「今のはベットにしとくんだった、まんまとのせられちまった。ったくペースが狂うぜ」
「お、俺のせいじゃな、ひぁ」
「んじゃ弟の負けを祈れよ。アイツにイイ手が回ってくるたびお仕置きターンだ」
「む、無茶苦茶だ……!」
ハロルドが強く膝を割り入れ、ピジョンの脚を無理矢理開く。スワローが良い手を引くたび膝に圧力が加わって揺すり立てる速度と勢いが増し、交互にあるいは同時に強く乳首を抓られる。
それだけにとどまらず脇腹をくすぐられ「ひゃは、ひゃはは」とやけくその泣き笑いがとまらない。
感度が良すぎる反応に悦に入り、ハロルドが捨て札を一枚めくる。
「おっと、手元が狂っちまった」
「!や、待」
ピジョンに拒む暇を与えず、すくいとったカードを彼のシャツの襟ぐりから中へ投げ入れる。
「ここかな?それともこっち?」
「ぅあ、やめ、くすぐった……そこじゃないもっと右、右だって!」
「おっと悪い悪い間違えた、もっと下だな?」
「ズボンの中はやめて……!」
カードを探して節くれた手が這いずり回る。
ピジョンが暴れる都度カードは動いて位置を変え、ハロルドの手から遠のいていく。カード自体ののっぺりした冷たさに肌がぞくぞくざわめいて、かと思えば漸くカードに至ったハロルドが、その表面でくりかえしへその下をなでて乳首を擦り立てる。
もどかしげに捩る腰を覆うボクサーパンツの中央、恥ずかしい膨らみをカードの表面が緩く滑る。
「大人しくしてたご褒美にハートのエースをプレゼントだ」
「ふくっ……!」
主張し始めたカリ首に沿ってくりかえし角で撫で上げられ、股間がまた一回り大きくなる。
ハロルドがボクサーパンツの縁にチップをまねてカードを差し込み、ピジョンの股を大きく開かせ固定する。
言い繕えない膨らみが曝されて、咄嗟にコートの裾を掴んで前を隠そうとした一瞬、スワローと視線が衝突。
自分の全財産を巻き上げた男に体中めちゃくちゃに捏ねくり回され、たかる野次馬の前で節操なく勃起したピジョンを軽蔑に冷え込んだ眼光で一睨み、無音で口を動かす。
以心伝心の兄にだけわかる口パクの罵り。
『上がっちまえよ糞ビッチ』
「ストレートフラッシュ」
ピジョンをいじくるのとは反対の手でハロルドがカードを開き、野次馬が大いに沸く。
趨勢は決した。
スワローはけっして弱くない。が、今回は相手が悪い。大した下準備もせずアウェイに殴り込み、イカサマも辞さない勝負師に挑むのは無謀すぎる。
ピジョンはぎりぎりまで粘ったのだ、必死に止めたのだ、相手が悪すぎるって……
『絶対取り返すぞ』
けれどもコイツが聞かないから
「はーっ……はーっ……」
「残念、負けちまった。噂にゃ聞いてたけど強いねアンタ」
スワローが残る手札をテーブル上に放って、言葉とは裏腹に愉快げに弾む声音で嘆く。
男の方へ倒れ込むのはプライドが許さず、テーブルに突っ伏して蟠る熱をやりすごすピジョン。
どっと疲れた。じっくり弱火を通され、服の下はもうすっかりできあがってる。
野次馬がなれなれしくハロルドの肩を叩いて髪の毛をかきまわし勝利を祝う中、席を立ったスワローがテーブルを回り込んでくる。
足音が苛立っている。ピジョンはまともに顔を上げられない。どんな顔で弟を見たらいいかわからない。モッズコートの前をぴっちり閉じて、半勃ちの前を慌てて隠そうとする。
「痛っうぐ!?」
不意打ちをくらう。兄にわざと肩をぶつけ、コートに隠される間際の膨らみを鷲掴む。
「……股開いてさかってンじゃねえよ」
声変わり途中の掠れた声に、怒りを孕んで低く脅す。腰に来る声だ。
スワローがしていることはコートに阻まれて他の客には見えない。膨らみに指が食い込む激痛に脂汗を滲ませ前屈み、声を抑えて許しを乞う。
「……おねが……手、はなし……」
「抱かれたくて付いてったの?」
「な、に?」
「めちゃくちゃに抱かれたくて、今みたく大勢の奴らの前でいじくり倒されたくて、しらねーヤツのケツにホイホイ付いてったの?願いが叶ってハッピーだろ、野次馬に大人気だったもんな、びんびんに乳首とチンポ勃たせてイきかけてたもんな?」
「ちが……うに決まってるだろ!俺はだまされて」
「ポーカー勝負だってどこまで本気だか。そんなにカラダが疼いて仕方ねーならテメェをテーブルにのっけろよ」
荒っぽく股間を揉まれズボン越しにしごかれる。
コートを掴む手が震え、威圧に屈して次第に力が抜けていく。
こんな状態じゃ何を言っても無駄だ、体が意志を裏切って切なく昂ってる。
ハロルドが手早くカードを片付けてケースにもどし声をかける。
「内緒話は終わりか?約束忘れてねーだろな」
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