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第1話

アザレアタウンの歓楽街に巨大な看板が出ている。 牛柄マイクロビキニに今にもたれ落ちそうな爆乳を申し訳に包み、カウボーイハットを小粋に被った美女が、ポップなトイガンからミルクを噴射するミルクタンクヘヴンの広告塔だ。端にシンボルマークのミルクタンクが小さく描かれている。 未婚の処女だが何故か母乳のでる風俗嬢をおいてるのが最大のセールスポイントで、世の中の巨乳好きのニーズに応えて順調に店舗数拡大中のこの店に、一組の奇妙な客が訪れる。 歓楽街の喧騒の中でも浮いた二人組に老若男女とりまぜた通行人がちらちらと視線を投げかけていく。 好色と好奇、そして不審のまなざし。 主に視線を集めているのは右側の少年。年の頃は13、4。しなやかに伸びた手足と均整の取れたスタイル、身長は160台後半。同世代の男の子と比べても抜きんでて優れた容姿の持ち主だ。たっぷり太陽を吸った玉蜀黍の房を思わせるイエローゴールドの髪は反骨精神旺盛にはねまわり、かっきり弧を描く眉に意志の強さが浮き出ている。彫り深く整った鼻梁と酷薄そうな薄い唇、尖った顎。両の耳朶に安全ピンとイヤーカフスを連ね、スタジャンを着崩したいでたちも様になっている。 胸元にぶらさげたちゃちなドッグタグを指で弾き、少年……スワローは傍らを見上げる。 「覚悟は決まったか、兄貴」 「保留で」 「保留じゃねえよ何分待たせんだよ」 弱弱しく首を振る兄の尻を蹴り上げる。 この期に及んでまだ踏ん張るとは往生際が悪い。スワローの隣にはモッズコートを羽織った十代半ばの少年が、緊張に引き攣りがちな面差しで突っ立っている。赤みがかった金髪はさらさらの猫っ毛。特にこれといって特徴のない容姿だが、清潔そうな風貌と頼まれたら断れない優しげな雰囲気に好感を持つ人間は多かろう。首に巻いた小粒の鎖はシャツの内側へと消えているが、先端には弟とおそろいのドッグタグが括り付けられていることをスワローだけが知っている。 お人よしがモッズコートを着て歩いてるような彼こそ、スワローの兄のピジョンだ。 歓楽街の喧騒を背に風俗店の正面で立ち尽くすふたり。身長はスワローの方がほんの少し高い。兄の背を追い越したのは13になってすぐだ。今だ成長期で更新を続ける身長は、最終的には180に届くだろう。端から見ればスワローの方を兄と勘違いする人間は多い……が、髪と瞳の色以外容姿に共通項がないのでそもそも兄弟と見抜ける人間が少数派だ。 ピジョンは既に腰が引け、今にも逃げ帰りたそうな様子でずりずりとあとずさる。 「やっぱやめる」 「待てコラ」 「こういうのよくないよ、セックスには愛がなくちゃ……女の子をお金で売り買いするなんて間違ってる。しかも筆おろしの相手に選ぶだなんて」 娼婦の息子とは思えない発言だが、本人が本気でそう思っているのがたち悪い。 ピジョンは視線を上に逃がし、店の上空に突き出た看板をガン見する。正確にはそこに描かれた露出過剰なカウガールの爆乳を瞬きもせず凝視する。 「初体験の相手はお互い好き合ってよく知りあった女の子がいい」 「俺のおごりだっつってんだろ」 「そういう問題じゃない」 「とっとと男になってこい」 「何度言ったらわかるんだよスワロー、俺の話ちゃんと聞いてた?下半身に脳移植したお前と違って、俺は童貞を捧げるなら本当に好きになった子って決めてるんだ。順序すっとばしてとっかえひっかえしてる浮気者と一緒にするな」 「せめて看板から目ェはなして言えよ」 ピジョンがこっちに向き直る。スワローは兄の首に腕をまわし抱き寄せる。 「童貞捨てちまいてーんだろ?女と付き合っていざ致すって時、勝手がわかんなくて恥かくのはお前だぜ」 「う……」 「早漏を嗤われていいのかよ」 「そ、早漏じゃない」 「嘘こけ、毎回そっこー出してんだろが。ンな勃ちやすい体して説得力ねえ」 「お前のさわり方がねちっこいから……」 「未来の恋人を幻滅させたくねーだろ、なあ?」 できるかどうかわかんねーけど、と心の中で付け加える。 ピジョンは真剣に懊悩している。弟の言葉に惑わされ、腹をくくって予行演習に挑むべきか、信念を捨て金と引き換えにプロに筆おろしを頼むべきかと悶々と悩んでいる。 スワローはますます兄に密着、頼りない細腰に手を回してさりげなく臀をさする。 兄弟のスキンシップ以上の親密さを窺わせる仕草。それまるで恋人同士のペッティング…… 「いでででで!?」 手の甲をおもいきり抓られる。息を吹きかけ大袈裟に痛がる弟を、ピジョンが軽蔑のジト目で睨む。白昼堂々公衆の面前でセクハラを働く痴漢を見るような、釘を打てそうな氷点下の眼差しだ。 「どさくさまぎれに尻をさわるな。お前は兄さんをなんだと思ってるんだ」 「血の繋がったセフレ」 「なっ……た覚えもなる予定もないぞ!?」 「嘘でも冗談でもねー既成事実。生きたオナホとか俺の穴のがよかった?」 「穴を所有格で語るな!最ッ低だな……いいか、よく聞けよ。もう何度目かハッキリ言っとくけど、俺はお前のオモチャじゃないし血の繋がったセフレでも穴でもない」 「血の繋がったオナホ」 「混ぜるんじゃない!」 「るっせえなヒステリー。こっちは15にもなって童貞こじらせたお兄ちゃんをかわいそがって、ステキなプレゼントまでやったってのに」 今年の誕生日プレゼントを持ち出されピジョンの顔色が豹変する。極大の絶望と憤怒と嫌悪がめまぐるしく入り混じり、スワローへ猛然と食ってかかる。 「オナホじゃないか!!!!!」 通行人がぎょっとして振り返る。何人かはわざわざ足を止め、往来のど真ん中で口論を繰り広げる巨大を凝視する。自分が一身に注目を浴びている事にも気付かず、弟から15の誕生日に貰ったプレゼントの内容を思い返したピジョンは支離滅裂に喚き散らす。 「兄さんの15の誕生日にオナホをプレゼントする弟がどこにいる!?」 「ローションもおまけにやったろ」 「そういう問題じゃない!!なんだよオナホって、もう少しマシなもんなかったの!?アレもらって俺が嬉しがるって本気で思ったの!!?」 「いつもトイレにこもってしこしこやってから恵んでやったんだ」 よりにもよってコイツはこの馬鹿はピジョンの記念すべき15回目の誕生日ににやにや笑って新品のオナホを贈り付けたのだ。条件反射で受け取ってしまった時の生々しい感触と衝撃が忘れられず、ショックがぶり返したピジョンは両手をわきわき蠢かす。スワローは全く反省の素振りなく、懐を探ってとりだした煙草を咥え飄々と嘯く。 「ワンパターンなオナニーだと飽きるだろ?アレすごいんだぜ、本物の女のアソコそっくりにできてるんだ、収縮力抜群の優れ物。ちょっとサイズ小めでキツいけど、ぎゅっぎゅっ搾ると超気持ちいいんだって。お前は痛い方が興奮すんだろ?」 「……使ったの?」 「いや。商品説明に書いてあった」 「てゆーかあんなのどこで買ったのさ……」 「こないだ行った街のアダルトショップ。品揃え充実してた」 「堂々と出入りするなよ恥ずかしい……お前新しい街来るたびアダルトショップチェックしてない?」 「極太ディルドのがよかった?」 「人が真面目に話してる時に煙草を喫うんじゃない!」 弟が唇にひっかけた煙草を没収、地面に捨てようか迷って道にポイ捨てはよくないと思い直しコートのポケットに突っ込む。 スワローは文句も言わず、ほとほと呆れかえってどこまでも生真面目な兄を見詰めている。 いきりたって肩で息をし、ピジョンは何度もくりかえし弟に指を突き付ける。 「どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ……あんなの絶対使わないからな、未使用で返却してやる!」 「一年前に言ったろ?これからは大人の玩具を毎年プレゼントするって。ああそうだ、まだ目の前で実演してもらってねーよな」 「馬鹿も休み休み言えよ馬鹿。俺だってたまには普通のプレゼントがほしい……」 「んじゃ豆」 「そっちのがずっとマシ。少なくとも食べれる」 ピジョンの発言は本気だ。どうしてスワローはこうも意地悪なのだろうか、世界にたった一人の兄さんの誕生日だというのにまともなモノをくれた試しがない。靴紐や蛇の抜け殻はまだ可愛げがあったが、近年の嫌がらせは手が込んできている。スワローも思春期に入って悪知恵が回るようになったのだろうか、来年は本当に極太ディルドやアナルバイブをプレゼントされるかもしれないと妄想逞しくしうそ寒くなる。 兄に煙草を没収されたスワローが、口寂しさを補うように首筋に息を吹きかけてくる。 「使い方わかんねーなら教えてやる」 「余計なお世話だ」 「意地張るなよ兄貴。ホントは嬉しいくせに」 「嬉しくない。使う予定もない。オナホに頼らなくても童貞は卒業できる」 「一度使うとやみつきになる」 「初体験は心に決めた人がいい。きちんと付き合って手を繋いでデートではアイスキャンデーをおごってあげて、交換日記でゆっくりと愛情を深めていくんだ。そしてロマンチックなハイクを書いたメッセージカードを贈りあうんだ」 「ハイク?」 「『君の瞳はミルキーウェイ 迷子の僕は瞳の銀河へアイキャンフライ』みたいな」 スワローがあんぐり口を開ける。 兄貴が母さん譲りのメルヒェンオツムなのは知っていたが、ここまで童貞をこじらせていたとは。 女にモテなさすぎてもう何万遍も理想の恋人とその愛情の深め方を脳内シュミレートしていたピジョンは、うっとり夢見がちに目を潤ませて将来の抱負を語る。だめだコイツ早くどうにかしねえと。 スワローは次第に苛立ち不機嫌に声を荒げる。 「はっ、そんなに俺のオナホが気に入らねーなら捨てっちまえ!」 「だ、だってもったいないじゃないか……まだ新しいし。ぶっちゃけ捨てたいけど」 「こっちは親切でくれてやったんだ、どーせテメェのこった愛だ恋だだうだうだ言って素人女にゃ指一本さわれねーんだろ、このまま二十や三十になっても童貞のまんまでいいのかよ?オナホで慰めとけよ」 「オナホオナホ大きな声で言うんじゃない人が見てるだろ!!」 「テメェの声が一番でっけえんだよ気付けよ!!」 ピジョンがヒステリックに叫ぶ。さっきからオナホだのディルドだのと連呼する年若い兄弟に、行き交う人々がドン引きする。スワローは兄を強引に路地裏にひっぱりこむ。往来から一本逸れた薄暗い路地へ糸もたやすく引きこまれたピジョンへ、自分よりほんの少し上背のある影が覆いかぶさる。 「一応気遣ってやってんだ」 スワローの手が頬に滑り、目の前に端正な顔が迫る。少年期を脱して日一日と男に近付いていく、精悍な色気を増した顔。睫毛の先端が目に刺さりそうで怖い。壁に手を突いて押し被さる弟に、ピジョンは生唾を呑んで訊く。 「気遣いって……?」 「女を知る前に女にされちゃ気の毒だろ」 スワローが耳朶に口を持ってきて、鼓膜をなであげるような艶めかしい声音で囁く。 「二年前の約束忘れてねーよな」 『三年待って三年!三年経ったら抱かせてやる!』 そうだ、確かに三年前ピジョンはそう約束した。もう少しで弟に貞操を奪われるという絶体絶命の状況に直面し、半ば自暴自棄苦し紛れに叫んだのだ。既に二年が経過して猶予期限は一年後に迫っている。 忘れてくれたらよかったのにと嘆いても後の祭りだ。気分の浮沈が激しく、ささいな事ですぐキレて、今もって脅すような微笑みを浮かべるスワローを前に堂々そらっとぼけるほどピジョンも命知らずではない。最悪殺される。 「俺はとっくに済みだから別にいーけど。お前は清いカラダだろ?女のよさをさっぱりしらねーときてる」 「う、うるさい。俺だってその気になれば……」 「へえ、その気になれば?そのへん歩いてる女に声かけて、一発ヤッてこれんのかよ」 気弱げに反駁するも語尾が自信なさげに萎む。スワローは兄の頬をいやらしくなでまわし、もう片方の手を下半身へのばす。体の芯に刷り込まれた恐怖と体の表皮に刷り込まれた快感とが一緒くたに疼きだす。壁際に追い詰められ逃げ場はない、下手に騒げば表に聞こえる。スワローは兄の保身を逆手にとって、ぎこちなく強張ったその体を好き放題にさわりまくる。 「男になる前に女にされちゃ可哀想だ」 「う……」 「内心まんざらじゃねーんだろ?だからのこのこ付いてきた」 スワローにさわられるだけで切なくなる、この体は既に調教済みだ。スワローは有言実行だ。やるといったら絶対やるし、約束を破る人間は許さない。その場しのぎで先延ばしにした自分の計画性のなさを呪ったところで遅い、いっそすっぱりきっぱり割り切って童貞を捨ててしまうのもありか、どうせ一年後にはスワローに処女を切られるのだ、血の繋がった実の弟にバックバージンを捧げる羽目になるのだ、それならいっそ…… ぐらぐらと理性が揺れる。 本能と欲望が思考を圧し、悪魔じみた誘惑が耳の孔にねじこまれ、生煮えの脳味噌を犯していく。 ピジョンだって健康健全な思春期真っ只中の15歳の少年、潔癖な印象が一人歩きしていてもその手の事に実際興味津々だ。十代前半から早熟な弟にいじめぬかれて、調教の快楽にどっぷり浸かった体は、人一倍感じやすくできている。性別問わず関係を結ぶ性的に奔放な弟とは対照的に、自分が今だ童貞を守っている事実は大いなる劣等感となっている。 スワローが人さし指で兄の首筋をゆるやかに刷き、首元を這う鎖を摘まんで転がす。 「俺だって悪いと思ってんだぜ?今回はオナホの詫びだ、一発キメんなら生身の女のがいいよな?大丈夫、母さんには内緒にしとくから。俺と兄貴、二人だけの秘密だ」 その一言が最後に背中を押す。 「……わかった」 どういう風の吹き回しか、スワローがおごってくれると言ってるのだ。どこまで本気か怪しいものだが、弟の気前の良さにのっかったって罰は当たらない。いつも貧乏くじばかり引いてるのだからたまにはおいしいご褒美にありついたっていいはずだ。 「社会見学。人生勉強。そういう感じで行く」 「決まりだな」 スワローが正面からどいてホッとする……暇もなく、手首をむんずと掴まれ無理矢理引っ張っていかれる。 再び店の前に立ち、二人して破廉恥な看板と見上げる。ミルクタンクヘブンは大盛況だ。昼から客足が絶えず、正面にたたずむ兄弟を何人もの男が邪魔そうに避けていく。 店舗は二階建て。牛舎をモチーフにした牧歌的な煉瓦棟が両翼を広げ、ちょうど中央にサイロに見立てたトンガリ屋根の受付がある。玄関の左右には牛柄のマイクロビキニに豊満な乳房を包み、看板を持った女の子がさかんに呼び込みを行っている。 「ミルクタンクヘヴンにようこそ!そこのお兄さん一発いかが、お安くしとくわよ!」 「搾乳と授乳、あなたのお好みはどちら?1万ヘルぽっきりでかわいい牛娘がおでむかえ、おいしく召しませホルスタイン!」 黄色い声を張り上げて売り文句を叫び、道行く男たちを片っ端から引っ張りこんでいく手口は商魂たくましい。 「あんなかっこで風邪ひかないのかな……」 「ほらよ!」 「うわっ!?」 おもいきり背中を蹴飛ばされたたらを踏んで入店、ウエスタンドアを左右に割ってホールに飛び込んできた新たな客を、カウンターの向こうのオーナーがマニュアル通りの接客スマイルで歓迎する。 「いらっしゃいませ、二名様でよろしいですか?」 カウボーイハットを斜に被り、鞣革のチョッキを羽織ったカウボーイの扮装をしたオーナーは、腰に手を付いて威張りくさるスワローとしゃちほこばったピジョンを胡散臭そうに見比べる。 「……随分お若く見えますが、お客様そのう……お金はお持ちですか?」 金もないのに冷やかしに来たクソガキと誤解されても無理はない、年恰好が若すぎる。それでも慇懃無礼な物腰は崩さず、あくまで丁重に尋ねるオーナーにっこりと笑いかけ、まるで十年来の常連のような悠揚迫らぬ足取りでカウンターへ寄っていくスワロー。 威風あたりを払う大股でカウンターへ接近、スタジャンの片側を開けて懐を見せる。そこには皺くちゃの紙幣が数枚、無造作に突っこまれていた。 「足りる?」 「これはこれは、大変失礼致しました。ええと……お二人はご友人で?」 「いいや、兄弟だ」 「それはそれは……」 「似てませんね」と喉元までこみ上げた言葉を飲み下す。詮索したくなる気持ちはよくわかる。 カウンターで交渉するスワローの後ろ、初めて訪れる風俗店に緊張が度を越して挙動不審のピジョンは、店内を物珍しそうに見回している。 カウンター横は簡単な応接セットを備えた待合室と化しており、白と黒の牛柄のソファーに順番待ちの客が居座り、そのうち何人かはほぼ半裸に近いランジェリーの女の子を膝にのっけて乳繰り合っている。大変目に毒だ。 「うわぁ……」 反射的に顔を覆い、両手の隙間からばっちりガン見。人気の女の子を指名したのか、だいぶ待ちぼうけを食わされている男が激しく貧乏ゆすりをする。風俗店の中ってこうなってるんだ、初めて来た。ミルクタンクヘブンという店名通り、徹底的に牛柄にこだわっている。女の子の下着やソファーの他にも随所に牛柄や牛のモチーフが散りばめられている。 「とっととこいピジョン」 「あ、うん」 ぞんざいに呼ばれて慌てて寄っていく。厚手の革装丁、やけにご立派なファイルを広げたスワローの横から料金表を覗く。ちなみにミルクタンクヘヴンのみならず、大半の風俗店は客側に年齢制限を設けてない。相応の金さえ払えばきちんとお客様として待遇してくれる。弟と半分こして料金表にじっくり目を通すピジョンを、オーナーが揉み手で応対する。 「当店のご利用は初めてですかお客様」 「は、はい」 「それでは少々ご説明致します。我がミルクタンクヘヴンは巨乳好きの巨乳好きによる巨乳好きのための巨乳専門店、現在大陸中に50の支社を持ち現在も絶賛店舗数拡大中です。未婚で処女ですが何故か母乳のでる女の子がよりどりみどり!みんな器量よしで気立てがよいイイ子たちばかりですよ」 「は、はぁ……」 「コースは三種類に分かれておりまして。お安い順に微乳コース、巨乳コース、爆乳コース、超乳コースですね」 「超乳……!?」 「微乳コースはCカップから、超乳コースはZカップからです」 「Aの霊圧が消えた……」 「巨乳専門店ですから」 「貧乳に人権はないの?」 「オプションで授乳と搾乳もお付けできますがどうします?」 「さ、搾乳と授乳……!?」 「搾るか呑むか二択です。今ならなんとびっくり!本日デビューの初乳の子もお選びできますが」 「初乳!?」 「初乳とは初めて出す母乳です。薄く水っぽく、味は非常に甘いですが、その後徐徐に濃いクリーム状になっていきます。母乳はタンパク質・糖・ミネラル・抗体を多分に含み栄養満点、まさに万能飲料です」 どうしよう何を言ってるか全然わからない。ていうかZカップってなにさ?それこの世に存在するの?お店にいるってことは実在するんだろうな……正直すごく見てみたいけど、頼む勇気はこれっぽっちもない。 説明を聞くにつれ入る店を間違えた不安が増大するが、店内を我が物顔で闊歩するいずれ劣らぬ巨乳の女の子と、その子たちの腰に手を回す男たちの姿が誤解を晴らす。 「マニアックすぎるだろ……」 もう帰りたい。コイツの口車になんかのるんじゃなかった。 ピジョンは既に泣きそうな顔でいけしゃあしゃあとふるまうスワローを見る。視線で助けを求める兄を綺麗さっぱり無視、熱烈な秋波をよこす女の子を気まぐれな微笑みで悩殺するスワロー。ソファーの一角に屯った風俗嬢たちが蓮っ葉な嬌声を上げる。ピジョンはじれて軽く袖口を引く。 「スワロー、ねえスワローってば!どの子にしたらいいと思う?」 「は?ンなのテメェで決めろ、童貞やる相手だろ」 おっしゃるとおりごもっとも。 ぐうの音もでずやりこめられ、素直に反省して料金表を見直す。どの子も可愛くて目移りしてしまう。路上で客をとる娼婦と違って、特定の店に属してるというだけでステータスが上がる。店が管理する限りにおいて性病や妊娠の心配もないが、劣悪な店では必ずしもケアが行き届かないのが現状だ。ルールを破って客と恋仲になったり、料金に色を付けてもらうのと引き換えに個人的な要望に応えて「生」でやる風俗嬢が絶えないためその手のトラブルは常に尽きない。 悶々としつつページをめくる手が止まる。オーナーがすかさずおだてる。 「さすがお客様お目が高い、スイート嬢に目をとめるとは!」 「スイート……」 「先程申しました本日デビューの初乳ガールです。ばいんばいんのわがままボディ―に見合わぬベビーフェイスが魅力的な、当店一押しゆるふわオツムの女の子です。まるで幼い女の子のようにピュアでイノセントな風俗嬢ですよ。いえね、実をいうと私も心配しておりました。スイートちゃんはアレで結構扱いのむずかしい子でしてね……その点お客様のようなお優しそうな方に初めてをお頼みできるなら安心です、全身から人畜無害な雰囲気が滲み出ている!停電になってもコンドームは絶対付ける、そんな誠実なお顔です!」 「まったく全然嬉しくないたとえをどうもありがとうございます」 もはや客の意志抜きにとんとん拍子に話をまとめる。ピジョンは困惑顔でファイルに目を落とす。 料金表の右上隅、ショッキングピンクのツインテールが一際目を引く少女が天真爛漫な微笑みを浮かべている。無垢で純粋、この世のあらゆる悪徳と無縁な笑顔。髪は染めているのかもしれないが、ラズベリーの瞳は本物だろうか。年齢はピジョンと同じかやや上か、全身が甘ったるい砂糖菓子でできているような女の子だ。風俗店などよりお花畑でくるくる回ってる方が余程似合う風貌……どことなく母を思い出す。 「コイツが好み?」 ひょっこりとスワローが肩にのっかってくる。スイートなる源氏名の少女の顔写真を弾いてからかい、人さし指をその隣に移す。 「んじゃ俺はこっち」 「お前も頼むの?」 「テメェがお楽しみ中じっと待っとけって?お預けはこりごりだ」 元々俺の金だしと付け加えられては返す言葉もない。スワローが指さしたのは、健康的な褐色肌と金髪のボブカットが映える18歳前後の少女。異国の血が混じっているのだろうか、円らな黒い目は生気に溢れて溌剌と輝いている。美人というよりチャーミングという表現がしっくりくる外見だ。何故かお約束のマイクロビキニではなく、ロングスカートの牛柄メイド服を身に付けている。 オーナーが我が意を得たりと破顔する。 「サシャ嬢ですね、これまたお目が高い!彼女肌が黒いでしょう、ジプシーとの混血なんです。とっても気立てがよくて素直ないい子なんです、少々ゴシップ好きなのが玉に瑕ですが……この子ね、元々うちで雇った掃除婦だったんです。ですがそのたわわなる巨乳っぷりと逸材の才能を買われて直々にスカウトされ、今じゃ一番の稼ぎ頭。しかしながら初心を忘れないようにと末だにお仕着せの牛柄メイド服を着続ける、なんと見上げた心意気でしょうか!素晴らしい!かえってそれがいいというお客様も数多い!」 「大丈夫かよこの店……」 「だめじゃないかな……」 スワローに同感だ。オーナーがカウンターの隅に固定された電話の受話器をとり、指名された女の子を内線で呼び出す。 「あ、スイートちゃん?今いい?え、マカロン食べてた?マカロンよりお客様が大事、ご指名入りましたよ!大丈夫優しそうな人だから安心して、怖くない怖くないよー。あ、サシャちゃん?君もご指名だよ。お相手はなんとびっくり、絶世の美少年!マジ?マジさ!うちが男娼扱ってたらそっこー採りたい位さ!年はねーんー君よりちょびっと若いかな?でもけっこー遊んでるっぽい雰囲気だし大丈夫大丈夫、きっと上手くヤッてくれるって、一日何百何千ってお客を見てるオーナーの目に狂いはない!そーそーご兄弟みたいだから隣同士の部屋にお通しするね、その方が盛り上がる……じゃない、何かと安心でしょ?」 接客していた時の丁重な敬語から一転、フランクに砕けた口調で女の子と雑談するオーナーをよそに、ピジョンはもうドキドキしすぎて喉から心臓が家出しそうだ。 さっきから手汗がすごい、これじゃ女の子に嫌われてしまう。ズボンに手のひらをなすってなんとか落ち着こうと努める兄の傍ら、スワローが軽薄に口笛を吹く。 「きた」 廊下の奥から連れ立ってやってくる二人組の女の子。透け透けランジェリーに巨乳を包んだ少女がツインテールを元気に跳ねさせて駆け寄ってくるのを見、ピジョンは卒倒せんばかりに赤くなる。 「あ、あ、あ」 「男になってこいよ小鳩(ベイビー)

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