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第1話

村の外れに住んでる女の子がおかしい。 こんな田舎にやってくること自体がもうおかしい、村の大人達も言ってた。 大体、女の子を連れてきた男自体がおかしかった。 姿を見たものはほとんどいないが、見た者によると女の子の父親というには若く、田舎にほとんど無関心なような、都会の金持ちだったという。 物好きの金持ちにしてもおかしすぎる、と。 古い大きな屋敷を買い取って改造し、高い塀で覆ってしまったし。 屋敷の中に居るのがたまにおとずれる男と、女の子と、年老いたメイドだけだというのもおかしい。 あんなに大きな屋敷なのに。 室内に大きなプールがあるんだそうだ。 工事をした業者が言ってたから間違いない。 女の子が車椅子なのにプール? リハビリだろう、とか、 でも、一人しかいない家にあんなに大きなプールが必要か? とか。 噂はつきない。 引越してきた時にはさすがに村の人を雇わねばならなかったから、その時にチラリと見た、車椅子の女の子について、村人達は噂した。 顔を覆うベールをつけていたらしい。 今どきそんなものをしかも室内でつける女性はいない。 しかもまだ子供なら。 そして、誰とも言葉を交わさず、女の子は引越しが終わるまで部屋に引きこもっていたらしい。 普通、誰が屋敷の人間なのかは示されるものなのだ。 こんな田舎ならなおさら。 誰が住んでいるのかは、とても大切な情報なのだ。 上級社会の人間であればあるほど。 大金持ちなのは確かなのに。 女の子が醜いからだ。 そう噂が立った。 化け物みたいな容姿だから人目に晒したくないのだと。 村の噂に尾ヒレがついて、「顔中目玉だらけの化け物」がそこにいるのだと子供達の間でまことしやかに囁かれるよういなった。 化け物を見たいと思ったのは一人の少年だった 少年はどんな樹でもスルスルのぼり、どんな石の塀でも僅かな窪みを掴んで乗り越えることができた。 山の岩場を登ることに比べたら、屋敷の塀など大したことはなかった。 だから乗り越え、入り込んだ。 しまった、と思ったのは忍びこんですぐに、屋敷の中の樹の枝に身を隠していると、車が庭に入ってきたことだった。 今日は男がこの家にもどってくる日だったのだ。 だが、諦めるつもりはない。 化け物を一目みたい。 少年は屋敷の壁さえ登り、窓を一つずつ覗き込んでいく。 化け物を見たかった。 そして友達に見たことを自慢したかった。

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