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「まさか誤放送だったなんてな・・・」  足早に保健室に戻る。職員室から保健室はそう遠くはない。が、あんな状態の咲良を長い間1人にしておけない。  咲良は、気付いていた。違和感の正体に。  ここまで知られたのなら、全部話す他ないだろう。俺はおそらく、許してもらうことはできない。  だが、たとえ恋人や友人でなくなったとしても、遠くからでもいい。咲良を、見守ることだけはどうか、許して欲しい。  咲良、咲良、咲良に会いたい。どうしても、会いたい。  可愛い、可愛い、俺の、咲良ーー  保健室の前の廊下まで来た時だった。何か、胸騒ぎがする。  気のせい、きっと、気のせいだ。  そう自分に言い聞かせ、呼吸を整える。そして、扉に手を掛けた時、それは聞こえた。 「っぁ、や・・・、だ・・っ、ぁ、・・・ッ」  ギシギシときしむベッドの音、肌と肌がぶつかり合う音、  ーーーそして咲良の嬌声。 「っ、!!!」  なんで、なんでなんでなんで、どうして、  とにかく、咲良を、咲良を、助けないと。相手に、止めさせないと、  なのに、なぜか足が鉛の様に重く動かない。何で、何で、  すると、コツ、コツと足音がこちらに向かって近付いて来るのだ。 「ーー朝日先輩、何やってるんですか?」  聞き覚えがある声が、後ろから聞こえた。振り返ると、見覚えのある奴がいた。 「今朝ぶりですね、朝日先輩」  そこには、朝と同じでふわっと笑う、結城がいた。 「っな、んで・・、お前、」 「なんでって、僕、生徒会なので」 「生徒会、・・だって・・・?」 「本当に僕のこと覚えてないんですね、朝日先輩」  さっきから何を言ってるんだこいつは。生徒会?こいつが?こんな奴、生徒会にはいなかったはず。 ・・・・・・・・あ、あれ、もしかして、こいつ、 「・・・やっと思い出したんですね。僕、朝日先輩が落選"させられた"選挙で当選したんですよ」 「っ、!!」 「で、何で僕がここにいるか、でしたっけ」  ふっと鼻で笑うと、 「咲良先輩の様子を見に来たんです。僕との約束、破ったんですから」 「・・約束?」  すると、さらに結城は笑うのだ。 「咲良先輩、僕と別れてから様子、おかしかったですよね?あれ、僕のせいなんです」 「何、言って、」 「咲良先輩の中に、玩具入れたんです。1日耐えられたら、知りたがってること全部、教える約束してたんですよ」  は、咲良の中に、?だから、今日、ずっと・・ 「でも、咲良先輩、ルール破ったんですもん。まさか、直接朝日先輩本人に聞くとは思いませんでした」 「だから今、罰ゲーム中なんです」  こいつと話している今も、中から打ち付ける音と、咲良の悲鳴とも言える声が漏れ聞こえていた。  すると、結城は笑いを堪えながらこちらを見るのだ。 「・・もしかして、咲良先輩に誘われてるって、勘違いしてました?」  あはっと笑うこいつに、かっと顔が熱くなった。  悪魔か、こいつは。とにかく、こんな奴放って置いて、咲良を助けにーー  再度扉に手を掛けた時だった。 ーーパシっ  結城に腕を掴まれたのだ。 「・・・アンタ、自分の立場、分かってんですか? 」  ぴくっと肩が揺れる。立場、なんて分かってるに決まっている。  でも、それでも、俺は、 「そもそも、この状況も、先輩が招いたことですよね?」 「っ、!」 「何ですか、その顔。今更被害者ぶって」  結城があざ笑うかの様にこちらを見た時だった。   ーーガラッッ  扉が勢いよく開いたと思えば、息を切らした、まさかの奴が出てきたのだ。 「っ、!」  奴は俺と目があうやいなや、一瞬驚いた様子だったが、すぐ様走ってその場からいなくなった。  開いた扉からは、カーテンで仕切られた部屋から、咲良の嗚咽が混じった泣き声が響いた。 「ーーさく、」  空いた扉から中に入ろうとしたところで、肩をガシッと掴まれた。  すると結城は、 「ま、そういうことなんで、黙ってここで待っててください。俺が、今から咲良先輩を慰めてくるんで」 と、言うと1人カーテンで仕切られた咲良の元へ向かうのだ。 「咲良先輩、大丈夫ですか?ぐちゃぐちゃですね」  俺じゃない奴が、咲良に触れる。  俺じゃない奴が、咲良を乱す。  俺は、全部、そうなるって、分かっていた。分かっていたはずだ。だが、いざ、目の前でやられるのかと思うと、正気でいられるわけがない。  咲良は、もしかしたらこの状況は俺のせいって、気付いているかもしれない。  でも、それでも、俺は、俺は、咲良がーーー 「へえ、何か面白いことになっているね」  聞き覚えがある、落ち着いた声が、後ろから投げかけられた。 「あ、アンタは、ーーー」  多忙らしいそいつの姿を見たのは、生徒会選挙があった日が最後だ。  整った容姿、こんな状況でも落ち着いている、王者の風格。  奴は俺と目が合うと、にっこりと微笑むのだ。 「・・・で、君は何をしているのかな?選挙に"落ちた"、朝日くん」 「・・は、出たな、サイコ野郎」 「・・・相変わらず、口の利き方がなっていない。本当、親御さんの顔が見てみたいよ」  中からは咲良の声が、聞きたくない声が、聞こえる。  何でこのタイミングでお前が来るんだよ、と目の前の冷ややかな目を向けてくる奴を、きっと睨んだ。

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