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「俺、最近朝日と寝てるから、一人で寝られないんだ。・・・ダメか?」
「っい、いやいやいや・・・、駄目っていうか、・・」
「・・・咲良ちゃん、それはさすがにデリカシーないんじゃない?」
「いやあんたにデリカシーうんぬん言われたくないんだけど?」
じろっと類を見やると、類はえへっと笑っていた。いや、さっきまで俺にあれやこれややっていた奴が本当に何を言っているんだ。
「・・てかさ、朝日先輩はどうしたの?急に生徒会室離れることになったから兄さんのこと見てて欲しいって、朝日先輩から連絡がきたからここに来たんだけど」
「そしたら案の定、生徒会室の外にまで声漏れてるし・・・」
弥生が二人をギロッと睨むと、二人はバッと視線を逸らすのだ。
いや、声漏れてたのも普通に恥ずかしいんだが。それよりも・・・、
「・・朝日は、椎名と出て行ったんだって」
「椎名って・・・ああ、最近よく来てる、あの・・、」
「朝日と出ていく時、椎名は随分と大きな声で朝日の部屋に泊まると言っていたよ」
「・・まるで、誰かにアピールするみたいに、ね」
那智が横目でちらりと俺を見やると、さっきのこともあり、その視線にびくっと肩が震えてしまうのだ。
すると弥生はそんな俺を見かねて背中を撫でてくれた。
「アピールって、まさか、兄さんに?」
「ああ。咲良が嫉妬しているのを楽しんでいるみたいにね」
「・・・性格悪、そいつ」
「・・ま、そういうこともあって、さっきも言ったけど俺一人じゃ寝れないし、弥生の部屋に泊まらせて欲しいんだよ」
「いや、それは・・・、」
「・・・それに俺が部屋に一人でいたら、こいつら部屋に来るかもしれないだろ」
弥生に耳打ちすると、那智と類はにやっと笑った。耳打ちの意味がなかった。
その後、俺の説得のかいあって弥生は部屋に泊めてくれることになった。おかげで俺はぐっすり眠れたが、弥生はほとんど眠れなかったようで、目の下にクマができていた。
***
「咲良・・・、この間は悪かった。一人にして・・・」
朝日が多忙なことから、あれから数日が経った。
俺は自分の業務がなかったことから、授業が終わると弥生の部屋へ直帰し、生徒会室には寄らなかった。
俺が避けていたことから朝日とは教室で顔を合わせる程度で、その間同じクラスの椎名は相変わらず朝日にべったりだったのだ。
そのこともあるし、当然俺はあの日のことも根に持っていた。朝日もあの日俺の身に起こったことは弥生から聞いているはずだ。
それなのに、本当に信じられない。教室でも俺の目の前で椎名と仲良くしているなんて。
「咲良、俺の話をーー」
聞いてくれ、という前に、俺は朝日の制止を無視し生徒会室を飛び出すと、タイミング良く生徒会室に入って来ようとしていた人にぶつかってしまった。
ぶつかった拍子によろけて転倒しそうになった俺の腕をぱしっと掴まれて、何とか転ぶことを回避できた。
礼を言おうと顔を上げると、今最も顔を合わせたくない奴がいたのだ。
「げっ・・・」
「「げっ」ってヒドくない?完全に警戒されてるよ俺達」
すると、類は掴んでいる俺の腕を見ると顔をしかめるのだ。
「てか腕ほっそ。ちゃんとご飯食べてる?痩せたんじゃない?」
「可哀想に、朝日のせいで・・・。また慰めてあげようか?」
「い、いや・・・」
類は俺の腕を掴んだまま離さない。俺より大きな類の手からは逃れることはできなかった。むしろぐいっと引かれてしまい、引き寄せられてしまうのだ。
「ほら、遠慮しないでーー」
「ーー先輩方、一人相手に二人で寄ってたかって、恥ずかしくないんですか?」
その時、コツン、と足音が響いた。類と那智がデカいせいで見えなかったが、足音に振り向いた二人の視線の先には椎名がいたのだ。
椎名はこちらまで近付くと、俺の腕を掴む類の手をパシッと払った。
すると、俺と二人の間に入り、俺を背に隠すのだ。
「・・椎名、だったかな。朝日は中にいる。入口前で邪魔して悪かったね。・・でも、咲良は返してもらおうか」
椎名の背にいる俺に手を伸ばしてくる那智にびくっと肩が震えた。
そんな俺を見る椎名はその手をパシッと掴むのだ。
「・・何の真似なわけ、お前。生徒会でもないくせに、首突っ込まないでくれる?」
類は椎名を見下ろすと鋭い眼差しを向けた。そんな類の威圧にも、椎名は全く動揺していなかったのだ。
ーーいや、本当にどういう風の吹き回しだ?椎名は俺のことが嫌いなはず。なぜ庇うのだろうか。
「・・何でもなくはないです。今日は咲良と約束があって来たんで」
約束・・・?そんなのした覚えはない。
ーーまさか、俺を庇う為に嘘を付いたのか・・・?
「いや、そんな見え見えの嘘、通用しないから」
「嘘じゃないです」
すると、突然椎名にパシッと手を取られるのだ。
「ーーほら、咲良、行こっ」
何がなんだか分からない俺は「え」と腑抜けた声が出てしまう。
取られた手をぐんっと引かれ、二人をその場に残して廊下を駆け抜けた。
振り向くと、きょとん、としている二人がこちらを見ていた。
俺は椎名に手を引かれるがまま、ただ足を動かすしかなかったのだ。
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