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「よし、ここまで来れば追って来ないでしょ」  俺達はあれからしばらく走り、追って来ていた類達からの追跡を逃れた。・・のは、いいんだが。 「・・・おい、助けてくれたのはありがたいけど、あんな真似したら生徒会に目を付けられるぞ、お前」 「別にいいよ、もう遅いし」 「え?」  すると椎名はこちらに振り返り、にこっと笑うのだ。 「・・・ね、咲良。お礼と言っちゃなんだけど、ちょっと付き合ってくれない?・・朝日のことで、話もあるしさ」  朝日と別れろとか言われるのだろうか。恐らくそのことに関連した話で間違いないだろう。  椎名に手を引かれたまま連れてこられたのは、近くにあった空き教室だった。 「・・んで、何だよ話って。・・朝日ならやらないからな」 「ーーああ、それは大丈夫。俺、はなっから朝日のこと好きじゃないし」  むしろ嫌いかも、と呟く椎名に「え?」と振り向くと、いつの間にか椎名は俺の後ろにまで来ていたのだ。  驚いて後ずさりするが背後には机があり、退路を絶たれた俺は椎名に手を取られてしまう。  机のフチに腰を押し付けられ、椎名の体が密着する。 「・・・なんの真似だよ」 「なんのって、・・まだ分かんないの?」  こういうことだよ、と呟いた椎名は頬に手を添えるとちゅっと口付けてくるのだ。 「っんん・・・ッ!」 「・・っ!」  驚いて思わず唇をガリッと噛んでしまうと、椎名は顔をばっと離すが、その額にはうっすらと青筋が浮かんでいた。  ーーこれは、まずい。 「・・へえ?意外と気ぃ強いんだ?・・ま、そういうのもいいね。ーー組み敷きたくなる」 「ーーは、」  何を言っているんだと思った、次の瞬間。景色がぐるんっと反転した。  冷たい机に顔が当たり、背後にある手は机に押さえ付けられて、身動きが取れない体勢にされてしまった。 「なっ・・!」 「・・ね、やっぱさ、俺が朝日のこと好きだと思った?・・俺、ちゃんと朝日に言ったのにな」 「ーー咲良を寄越せってさ」 「っ・・!」 「そしたら案の定、俺、朝日にマークされちゃってさ。・・ま、それを逆手に取ったんだけど」 「まさか、お前・・」 「・・そ。俺を咲良に近付けないために必死に朝日が俺にくっついて回ってたんだけど」 「逆に俺が朝日にべったりなフリしてれば二人が仲違いして、咲良一人になってるとこ狙えるかなって思ったんだけど、」 「ーーまさか、こんな思惑通りになるとは、ね」  最初から、俺を誘い込む為の罠だったとは・・。さっき朝日はそれを説明しようとしていたのか。  ーーそしたらこの状況、かなりまずい気がする。  机に押し付けられる手をさらに強く掴まれると、うなじにちゅ、と柔らかく口付けられるのだ。 「っひ、」 「へえ・・、感度いーんだね。可愛い」 「・・俺さ、そういうこともあってその内朝日に消されると思うんだよね。だから生徒会にどう思われようが関係ないんだよ」 「・・んで、咲良、ちなみにさっきの生徒会の二人とはどういう関係?」  ーーそうか、俺が生徒会と寝てるという噂は二年の一部しか知らない。そもそも、その噂も薄れつつある。おそらく椎名にはその噂は回ってきていなかったのだろう。 「・・お前に、関係ない」 すると、背後からあはっと笑い声が聞こえるのだ。 「ーーなんてね。俺、見ちゃったし。俺が朝日と生徒会室を出ていった日、あの二人にヤられてたでしょ」 「っ・・!」  まさか、見られていたとは。 「・・でさ、もう少しでいなくなる俺を哀れむつもりで、一回だけでいいから、俺ともシてくれない?」 「ぁ・・・ッ、」  するとシャツの中に手を入れられ、背筋をするっと撫でられるのだ。  捲られて露わになった背中にちゅ、ちゅ、と口付けられると体がびくっと震えた。 「っ、ぅ」 「・・ん、・・ね、いいでしょ?咲良」 「んで、相性良かったら俺にしなよ。きっと朝日より気持ち良くしてあげられるし」  ね、咲良と柔らかい口調でありながらも押し付けている手は緩められることもなければ、椎名は俺の返事も待たずにするっと肌を撫でるのだ。  冷たい机の上で力の入らない俺の抵抗も虚しく、されるがままになるしかなかった。

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