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 教室を出てから少し歩いた後、俺はぴたっと立ち止まった。すると俺の手を引き先を歩いていた類は、俺が立ち止まった反動でぐんっと手を引かれてよろけてしまったようだった。  そんな類は「どーしたの?」と振り返り、俺の顔を覗き込んでくるのだ。 「·····あの、俺、今日は無理なんだけど」  昼休みだからか、幸いにも廊下にはあまり人はいなかった。すると類はぽんぽんと俺の頭を撫でると実はね、と耳元でこそっと呟くのだ。 「·····みんな生徒会室で待ってるんだけど」  そして類はじっと俺を見つめてくるのだ。そんな類からなんだか目を離せずにいると、ぐいっと後頭部に手を回され、抱き寄せられてしまった。 「·····今日は俺の部屋、行かない?やっぱ咲良ちゃんのこと、独り占めしたいんだよね」 「他のみんなには内緒でさ、今日はこのまま授業サボっちゃおうよ」  そう人差し指を唇に当て、いたずらな笑みを浮かべる類はなんだか無邪気な子供のようだった。  ーーまあ、他の奴ら全員の相手は無理だが、類一人くらいなら、まだマシか。  そう思った俺はこくんと頷いた。すると類の表情がぱっと明るくなるのだ。「じゃ、行こ?」と類に手を引かれ、再び歩き出した時だった。 「咲良」  瞬間、俺と類の足がぴたっと止まった。  それもそのはず、俺を呼んだのは今まで俺と生徒会の連中に一切口出しをしてこなかった奴だ。  なんだか声を聞いたのも久々で、なんだかそれだけで目頭が熱くなってきてしまう。 「あさ、ひ·····?」  なんで、と言う前に朝日は俺の前にまで来ると、俺の手をぱしっと取るのだ。久々の朝日の手は、ほんのりと温かかった。  握られた手をぐいっと引かれると、昨日の疲れが残っている俺はふらっとよろけてしまうのだ。 そして朝日に腰を抱かれると、朝日の肩にぽすんと頭を乗せる体勢になってしまった。 「·····なに、朝日くん。咲良ちゃんには干渉しないんじゃなかったの」 「別れたんでしょ、君ら。·····なら、邪魔しないでくれる?」  突然朝日が来たことにより一瞬たじろぐ類だったが、掴んでいた俺の手をきつく握り、きっと朝日を睨んだ。  そんな類を朝日はじっと見やるのだ。 「類先輩、その手、離して貰えますか」 「··········は、なんで」  食い下がる類に朝日は眉を寄せ、類の胸ぐらを掴むと、ぐっと自身へ引き寄せた。そして類の耳に口元を寄せると「離せって、言ってんでしょ」と、低く威圧感のある声で呟くのだ。  すると類であっても、腐っても生徒会長である朝日には逆らうことができないのか、類は顔を歪めながらもしぶしぶ俺の手をぱっと離すのだ。  そんな類を朝日は一瞥したと思えば、突然体がふわっと宙に浮いた。背と膝を支えて持ち上げられ、朝日の顔が近かった。 「っあ、さひ·····」 「········顔色酷いな、保健室行くぞ。·····このまま寝てたら」  俺に一瞬目をやった朝日は落ち着いた声色でそう呟くと、俺を抱えたまま廊下を歩き出した。  俺達三人のやり取りに廊下や教室の扉からこちらの様子を覗き見ているギャラリーができていたが、久々の朝日の体温を直に感じた俺はそんなこと気にならなく、そこには俺達二人しかいないように感じた。  そして朝日の匂いに安心した俺は、そのまま静かに目を閉じた。

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