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 ここは、保健室だろうか。まどろみの中うとうととしていたところをベッドに下ろされたことで目が覚め、現実へと引き戻された。そしてベッドの縁に腰掛けている人物に顔を向けた。 「あ、さひ··········?」 「あー、悪い。起こしたか」  座ってスマホを見ていた朝日は目が覚めた俺の頬を優しく撫でるのだ。ちゃんと掛けろよと、布団を肩にまで掛けてくれる朝日の表情は穏やかで、俺を生徒会室で突き放してきた時とはまるで別人のように思えた。 「··········なんで、」  助けてくれたんだ、と言う前に朝日が「咲良」と俺の名を呼ぶのだ。 「······お前さ、まだ俺のこと好きだろ」  俺の顔の脇に手を付いた朝日はじっと俺の顔を覗き込んでくると、ベッドがきしむ音が響いた。そして、俺達の間に少しの沈黙が流れた。  突然のことで、朝日が言っていることを理解するのに少し時間がかかってしまった。  なぜ、そんなことを聞くのだろうか。まあ一度フられているのだから未練がましいと思われないように、本来であればもう好きではないと嘘でも言うべきなのだろう。  でも、浮気したこともバレてしまっている以上、他に隠すものはないとも思った。そして俺は、朝日に向かって小さく頷いた。  すると、ふっと視界が暗くなり、二人分の体重を乗せたベッドがギシッと沈むのだ。何事かと思った俺は目線を上に向けた。 「··········あ、」  朝日の顔が目の前にまできていて、驚いた俺は思わず顔を逸らそうとした。すると、頬に手を添えられ、朝日の方を向かされてしまうのだ。 「·····あ、さひ··········?」  この手はなに、と朝日の手をきゅっと掴むと、ゆっくりとこちらに顔が近付いてくるのだ。突然のことで驚いた俺は反射的にぎゅっと目を閉じてしまう。  すると、暗い瞼の裏しか見えない暗闇の中、ふっと朝日の笑う声が聞こえた気がした。  そして額に温かく柔らかいものが触れたと思えば、ちゅっと鳴るリップ音が保健室に響いた。ぱっと目を開けると朝日は体を起こしていて、こちらに向かって意地悪く微笑んでいた。顔が熱くなりながらも口付けられた額を指先でそっと撫でると、朝日の感覚がまだ残っていた気がした。  そんな俺を見る朝日は手を伸ばしてきたと思えば 「寝てていいよ。傍にいるから」 と、くしゃっと髪を撫でるのだ。  保健室に運ばれている間にほんの数分ではあるものの目は閉じていたが、ほとんど寝ていないことには変わりはなかった。  どういう経緯かは分からないが朝日が傍にいる、という安心感からか再び瞼が重くなってきてしまうのだ。  そんな俺の様子を見る朝日は「おやすみ」と優しく頬を撫でると、疲れが溜まっていた俺の意識はすぐに暗闇の中へと落ちてしまった。 「·····入れば?」  咲良が寝息を立てたのを確認した朝日は、保健室の扉の向こう側へいる人物へと呼びかけた。  そして扉の外にいる人物の肩が、扉の窓のすりガラス越しにぴくっと揺れた。  すると少し間があった後、静かに扉を開け、ばつが悪そうに中に入ってくるのだ。 「·····で、なんの用。椎名」  そして椎名はゆっくりと足を進めると、朝日の横、咲良が横になっているベッドの目の前で足を止めた。これ以上咲良に近付くなと言わんばかりに椎名の肩をぐっと掴む朝日は、じっと椎名を睨むのだ。 「·····なんの用かって聞いてんだよ」  そして咲良の寝息だけが響く保健室に、二人の間に沈黙が流れた。

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