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「ーーで、一体何の用だよ」  寝ている咲良を起こさないよう、椎名と共に廊下へ出ると、椎名は別に、とそっぽを向いて呟くのだ。 「朝日には関係ない。俺が用あんのは咲良だし」  ーーまあ、そうだろうな。  俺が咲良を突き放してから、咲良は椎名といる時の方が長かったから、今まで接点がない俺には用がないことは分かっていた。  だが、今日は椎名と咲良は朝から一緒にいることもなく、一言も話していない様子からして、二人の間に何かあったことに間違いはないだろう。 この間までははたから見ても鬱陶しいほどに、椎名は咲良にベタベタとしていた。その間は生徒会の連中は咲良を連れ出そうとしなかった。  で、今日になって類が咲良を呼びに来て、椎名と咲良が一緒にいなかったことを考えると、答えは一つしかない。 「·····あー、もしかしてだけど、類先輩とか那智先輩当たりに何かされた、とか?」  すると図星なのか、椎名の表情は強ばり、肩をぴくっと揺らすのだ。この反応は、おそらく間違いないだろう。咲良のことも気になるし、もう少し揺すってみることにするか。  他に類や那智、生徒会の奴らがやりそうなことといえば·····、 「例えば、そうだな·····、お前と咲良がヤったことがあいつらにバレて、その腹いせに、咲良があいつらとヤってるとこを見せつけられた、とか·····」  そんなところか?とちらっと椎名に目をやると、椎名は目に見えて分かるほど動揺していた。額には前髪が張り付くほど冷や汗が滲んでいて、何でと呟く声が震えていた。 「·····あ、もしかして、当たった?」  すると椎名は深く息を吐きながらがしがしと頭をかき、俯いたと思えば俺に視線を向けた。  そして、そこまで分かってんならもーいいや、と小さく呟くのだ。 「·····俺、咲良に心無いこと言われたから思い切り頬叩いちゃったんだよね」 「でもあの後よく考えたら、咲良はやっぱりあいつらに無理やりヤられてて、俺を生徒会に巻き込まないようにわざと突き放すような言い方したのかなって思って。それを確認したくてさ·····」  椎名がそう言い終わった瞬間、頭の中からふつふつと怒りがこみ上げてくるのが分かった。それが表情に出ていたのか、 「叩くなんて悪いことしたなって思ってるんだよ!」 だから怒らないで!と椎名は手を前に出すのだ。  椎名のことをぶっ飛ばしてやりたかったが、保健室の中にいる咲良を起こすまいと唇を噛み、なんとか堪えた。  椎名はそんな俺を見るとほっとしたのもつかの間、「てかさ·····!!」とバッと俺に顔を向けるのだ。 「お前ら生徒会ってなに、咲良にGPSとか盗聴器かなんか付けてるわけ·····?!」 「なんで俺が咲良とヤったとか、咲良が生徒会とヤったのを見せつけてきたとかを朝日が分かってんの?!怖いんだけど·······!!」 「あー·····、俺も前、那智先輩達に似たようなことされたから、椎名も同じようなことされたのかなって思ってさ·····」 「は··········?!何で今一緒に生徒会やってんの?メンタル強くない··········?!」  息を切らしている椎名を落ち着かせようと、咲良が起きるからと保健室を指さすと、はっとした椎名はバッと自らの口を手の平で押さえるのだ。  そして息を吐くと、落ち着いたのか朝日はさ、とぽつり呟くのだ。 「咲良と付き合ってたんでしょ?浮気されて別れたとはいえ、咲良が俺とか生徒会の奴らとかとヤってんの、嫌じゃなかったわけ?」  椎名は何で?とでも言いたそうな目で俺を見るのだ。  咲良が浮気したことはおそらく、類達から聞いたのだろう。確かに、嫌じゃなかったのかと問われれば嘘になる。  だから生徒会の連中が咲良とヤってる時は廊下で待ってたし、行為を直接は見ないようにはしていた。 「まあ、咲良には反省して欲しかったし、あれだけあいつらに好きにやられて痛い目見れば、もう浮気しようなんて思わないだろ」  すると、椎名はちょっと待って、と勢いよく俺の肩を掴むのだ。 「反省って、それだけの為に、他の男に好き勝手させたってこと?嘘でしょ·····?」 「は、まさか。んなわけないだろ」  あろうことかそんな理由で、好きな奴を手放すわけがない。俺がどれだけ咲良を好きか、どれくらい咲良を想っているかなんて、こいつらには計り知れないだろう。  ーーまあ、それでも、こいつらには感謝している。 「·····でも本当さ、お前ら、良い働きしてくれたよな」  くすっと笑い、目を細めながら目の前の椎名を見下ろした。  すると何かに勘付いたのか、椎名はまさか、と目を見開くのだ。 「最初から、知ってたよ。咲良が浮気してたこと。弱み握ればさ、一生あいつに首輪付けてられるだろ」  口元に手を当て、にやっと口角を上げる俺を見る椎名は絶句していて、頭おかしいとぼそっと呟くのだ。なんとでも言えばいいだろう。  咲良が浮気するようわざと寂しい思いをさせた。一番最初に類と体を重ねていたのも二人の雰囲気でなんとなく分かっていたし、那智とヤってた時だって部屋の外に声が漏れていた。結城や弥生も同様だ。  それらを今の今まで我慢していたのは、咲良を完全に俺のものにする為。  咲良は可愛い。この先だって、色んな男が咲良のことを放っておかないだろう。  ーーだが、もう俺のものだ。一生手放すつもりはない。

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