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あれから目が覚めた俺の目の前に、今まで構ってくれなかった穴埋めをするかのように優しくしてくる朝日と、叩いてごめんなと必死に謝りながらも、朝日だけは止めておけと必死に説得してくる椎名がいた。
先ほど一度は目が覚めたものの、その後に爆睡していた起き抜けの俺の頭は上手く回らなく、そんな俺の様子を見た朝日は暴れる椎名を無理やり廊下へ連れ出したと思えばそのまま鍵を掛けるのだ。
そして朝日は二人きりになった室内で、もう一度やり直さないかとの提案をしてきた。そんな突然の申し出に思わず涙すると、朝日は優しく抱き締めてくれた。
朝日によると、俺を突き放してからも俺とのことをずっと考えていてくれたらしい。生徒会に連れて行かれる俺を見ては胸を痛めていたとか。
今日はいつもより俺の顔色が悪く、昨日生徒会の奴らに散々ヤられたことを悟った朝日は、俺を守る為によりを戻すことを決めたらしい。
そんな朝日の申し出に二つ返事で承諾すると、朝日はもう離さないからなと抱き締める手に力を入れてきた。少し苦しかったが、それすらも嬉しかった。
そして廊下からバンバンと扉を叩く椎名を中に入れ、朝日監視の元、無事椎名とも話をすることができた。
俺を庇うためにああいう言い方しかできなかったんだよな、本当にごめんと何度も謝られた。俺も椎名に酷い言い方をした謝罪と、生徒会のあだこだに巻き込みたくなかったとのことを説明すると、またも椎名に謝られた。
というか、それは朝日の前で言っていいことなのかとちらっと朝日に目をやると、朝日は何も気にしている様子がないことから、おそらく俺が寝ている間に二人の間でその話をしたのだろう。椎名と体を重ねたことが朝日に知られたのは、なんとも複雑ではあるが。
ともあれ朝日とよりを戻すことができ、朝日には嫌がられたが、椎名とは仲直りをし友人に戻ることができた俺の日常は元へと戻っていった。
ーー数日後。
「なあ朝日、まだ業務終わんない?」
「あと少しだから」
ソファに腰掛け、パソコンに向かっている朝日の肩にぽすっと寄りかかっている俺は、朝日の肩に頭をぐりぐりと押し付けるとちょっと待ってな、とわしゃわしゃと髪を撫でられつつも早く、と朝日を急かしていた。
朝日の采配により、俺は生徒会へと戻ることができたが、先日朝日と類が俺のことで廊下で揉めた後、しばらく校内はその話題で持ち切りだった。
俺が朝日とよりを戻し生徒会に戻ったのも、なぜそうなったのかという噂話が未だ絶えない中、俺と朝日はそんなこと気にするでもなく、生徒会室でイチャつきながらも業務に励んでいた。
「ね、咲良ちゃん。朝日くんが構ってくれないならこっち来なよ」
おいで、と腕を広げる類に対して遠慮します、とふいっと顔を背けると、類はむっと口を尖らせるのだ。
「え~、咲良ちゃんまじで朝日くん一筋になっちゃったの?つまんないんだけど~!」
「·····類先輩、俺いんのに咲良に手を出そうとするの、まじでやめて欲しいんだけど」
「あー、ごめんね~、朝日くん。·····じゃ、朝日くんいない時に咲良ちゃんに手ぇ出すことにするからさ」
「安心して。もう咲良から離れることはないんで」
わざとらしくにやっと笑う類に朝日が冷たい視線を向けると、二人の間に静かに火花が散った。
すると、続けて那智も口を開くのだ。
「ああ·····、もう咲良とできないなんて、寂しいな·····。なあ咲良、朝日に内緒で、最後に一回だけしないか?」
自らの唇に指を当て、俺に向かって不敵に微笑む那智と目が合うと、隣にいる朝日は相手にするなとでも言うかのように俺の腰に手を回すとぐっと引き寄せるのだ。
「いや那智先輩、あんたは散々ヤったでしょ。ここは後輩に譲ってくださいよ」
「いや結城、兄さんと一番ヤってないの俺だから·····!」
那智に続いて結城と弥生も会話に入ると、誰が俺と一番ヤっていないのかと四人の間で言い合いになってしまった。
正直死ぬほどどうでもいいし、朝日がいるのにその話はして欲しくなかった。その間、朝日は表情を曇らせながらも俺の腰に回している手にぐっと力を入れ、業務をする手を止めることはなかった。
類と結城、そして弥生の三人が言い争っている中、那智は「なあ、類」と、静かな声で類に視線を向けると、騒がしかった生徒会室は突如として静まり返った。
そして那智に視線が集まる中、那智は静かに口を開くのだ。
「咲良が朝日に取られたのは、類のせいじゃないか?」
そう類を見やる那智に対して、類は「は?」と眉をしかめるのだ。
「なんで俺のせいなわけ?」
適当言わないでくれる?と類はじろりと那智を見ると、那智は机を勢いよくバンッと叩くのだ。
「お前·····、咲良を独り占めしようとしただろう·····?!」
「「咲良ちゃん取られたんだけど~!」などといかにも自分は悪くないとキレていたが、お前が咲良を独り占めしようとして、もたついていたから朝日に取られたんじゃないのか·····?!」
そうだろう·····?!と那智は類を睨むと、類はバッと顔を逸らすのだ。
そして那智による類の真似は無駄に完成度が高かった。
「··········な、なんのこと?まじでわけわかんないんだけど。咲良ちゃんのこと追っかけすぎて余計頭おかしくなったんじゃないの?」
「余計··········?!余計とはどういう意味だ········ッッ!!」
「余計は余計だよ。分かんないの?バカなの???」
二人がぎゃあぎゃあ騒いでいる間にいつの間にか業務を終わらせていた朝日はお待たせと、ぎゅっと俺の手を取るのだ。
「咲良、ここは騒がしいし、別なところに行こう」
俺の顔を覗き込んでくる朝日は、どこ行きたい?と優しく頭を撫でてくるのだ。
そんな朝日の肩をきゅっと掴み、「朝日の部屋、行きたい」と小さく口にすると、一瞬驚いた朝日は優しく微笑むのだ。
「ああ、いいよ。行こう」
未だ騒いでいる奴らを横目に、俺達はこっそりと生徒会室を抜け出した。
俺の手を握る朝日の手は温かくて、それだけのことなのに、なんだか嬉しかった。
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