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42【完】

ーー数日後。  朝日が教師に呼び出されている間、廊下で待っていた時のこと。突如として現れた椎名に腕を掴まれた俺は、そのまま中庭に連れ出されてしまっていた。 「っちょ、椎名·····っ!俺、朝日から勝手に離れたら怒られんだけど··········っ!」  朝日とよりを戻してから、俺達の間で三つの約束をした。一つ、言わずもがな浮気をしないこと。二つ、朝日のいないところで他の誰かと会話をしないこと。三つ、朝日から離れないこと。  ーーまあ、束縛されている、という実感はあった。だが俺は一度浮気をしている身で、また朝日と付き合えるのだからと、その条件を飲むことにしたのだ。 「いや、だから·····!その朝日本意のルールがおかしいことに気付いてよ·····!!」  ねえ·····!と俺の肩を掴む椎名はなんだか鬼気迫っている様子だった。とりあえず落ち着けと椎名の腕を掴むと椎名は朝日はさ、と再び口を開くのだ。 「信じられないかもしれないけど、咲良が浮気するのは朝日の計画だったんだよ··········?!咲良が他の男のとこに行くように、わざと寂しい思いさせてたんだって·····!」 「咲良の弱味を握って二度と離れられないようにするって、朝日が自分でそう言ってたんだ!だから、朝日とのことは考え直してよ·····!!」と椎名は言うのだ。  俺はそんな椎名に深く息を吐くと、椎名の目をじっと捉えた。  すると椎名は分かってくれた?と目を合わせてくるのだ。  そして、俺達の間に少しの沈黙が流れた。 「·····話はそれだけか」 「····················え」  俺の反応が意外だったのか、椎名は何言ってんのと小さく呟くのだ。俺はそんな椎名に首を傾げた。 「知ってるけど。そんなこと」  椎名を見やると、俺の言っていることを理解するのに時間がかかったのか、少し間があった後に「は?!」と目を見開くのだ。 「保健室で寝てる時、俺一回目が覚めてさ、その時お前らが話してんの聞こえたんだよ」  そうさらりと言う俺に対して椎名は「じゃあ、何で·····」と覇気のない声で俺を見た。 「なんでって·····、」  ふっと目を細めると、俺は朝日のいる職員室へと目を向けた。 「··········好きな奴にさ、それだけ愛されるなんて、これ以上幸せなことなんてないだろ?」  そう目の前の椎名に向かって微笑むと、ぽかんとしている様子の椎名はまじかと、額に手を当てながら俯いた。  すると、息を吐きながら俺を見やるのだ。 「···············お似合いだよ、お前ら」  椎名は呆れ返っているようで、完全に俺の入る隙ないじゃんと、ぼそっと呟くのだ。  確かに椎名の言う通り、俺達の関係は普通ではないかもしれない。だがこの関係であるからこそ、確かな信頼で結ばれていると思っている。 「おい 椎名·····、お前、咲良に何してんだよ········っ·····!!」 「っげ、朝日っ·······!」  いなくなった俺を探し回っていたのか、息を切らしている朝日が椎名の背後から現れた。  椎名の押しのけた朝日は俺の前にまで来ると、何もされてないかと肩を掴むのだ。 「ああ、大丈夫だよ。ただ話してただけだから」  でも約束破ってごめん、と俯き朝日の手に俺の手を添えると、朝日は顎に手を当て少し何かを考えた後にじゃあさ、とちらっと椎名に目を向けるのだ。 「·····お詫びに、今ここでキスして。舌入れるやつ」  べっと自らの舌を出し、朝日は不敵に微笑んだ。 は?!と椎名は動揺しているようだったが、そんな椎名を横目に分かった、と朝日に身を寄せ、首に腕を回した。  背伸びをして顔を上げると、俺より少し背の高い朝日の唇にふに、口付けた。  ーーそういえば、俺はあまり自分からキスをしたことがなかった。  この後どうしたらいいのか分からず、唇を重ねたまま動けずにいると、腰にぐっと腕を回されたと思えば閉じた唇を舌でこじ開けられてしまうのだ。 「ーーっんん··········ッッ」  舌を喉奥まで絡め取られ、舌の裏側まで熱い粘膜が滑ると、ぐちゃぐちゃと水音が響いた。  尖らせている舌先でぐりぐりと顎上を撫でられると腰が跳ね、口の端からは涎が垂れてしまった。 「っは、·····ぁ·····っ」  そんな俺の様子を見た朝日は余裕そうに唇を離すと、大丈夫か?と、朝日の支えなしでは立っていられなくなってしまった俺の顔を除き込んでくるのだ。 「っ、見たら、分かんだろうが··········っ」  涙が溜まっている瞳で朝日をきっと睨むと、ごめんごめん、と優しく頭を撫でてくれた。  すると、始終この光景を見ていた椎名はわなわなと肩を震わせるのだ。 「~~~っ!この、バカップルが·············ッッ!!」  よそでやれ!と顔を真っ赤にした椎名はぷりぷりとこの場から去って行った。  そして残された俺達はぽかんと椎名が去った場所を見つめたまま、少しの静寂に包まれた。 「ぶふ·····っ」  すると、先程の椎名の言動を思い出してしまった俺達は思わず吹き出してしまうのだ。  椎名は保健室で話をしてからというものの、しょっちゅう俺の世話を焼いてくれている。その度に朝日と顔を合わせて喧嘩をしている二人を止めるのがもはや毎日の日課だ。  生徒会ではというと、毎日誰かしらからセクハラを受ける為、朝日は常に俺の隣にいる。たまに朝日の隙をついた類や那智当たりが俺の隣に座ってきては触ってくるなどをしてくる為、その度に朝日がどついている。連中は全く反省していないが。  正直、俺の浮気癖が再発しないか心配だったが、約束した通り朝日が俺から離れることはないし、業務が忙しくても構ってくれるおかげで、夜の方も不自由していない。  保健室で朝日の真意を聞いた時は正直驚いたし、少し引いたが、俺が浮気している間朝日は寂しかっただろうし、これからはその時の穴埋めもしていかなければならない。  隣で寝ている朝日を抱き締め、無防備な頬に優しく口付けると、朝日の肩がぴくっと揺れた。 「·····ん、さくら··········、ねれない·····?」 「あ、ごめん、起こして。ちょっと目が覚めただけだよ」 「そっか。··········なあ、さくら。どこにもいくな、たのむから·····」  寝ぼけているのか、その声は途切れ途切れだった。背に回された腕が少し冷たいことから、朝日も毎日不安なのだと思う。 「·····は、毎日これじゃあ、どこにも行けるわけないだろ」  行く気なんてないけどと呟き、優しく口付けると、満足そうに笑う朝日は再び寝息を立て始めるのだ。離さないと言わんばかりにきつく抱き締められ、体が朝日で満たされていった。  こんなに心地良い束縛なら悪くないと、朝日に包まれながら俺も眠りについた。 End.

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