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赤髪の花婿・13
「翠佳さま、なにをおっしゃって――」
「けれど……今回のことで、そんなに浅いものではないと確信いたしましたわ」
翠佳は傷ついた左腕をそっと撫でる。慈しむようなその仕草に、彼女の女性らしさが見えた。
「青明様……あなたはこの状況でも太守様に助けを求めず……ご自分の罪を受け入れて、静かに去ろうとしているのね?」
「…………」
「それを、愛と呼ばずに、なんと呼ぶのが正しいのかしら」
翠佳はそんな問いかけだけを残して、静かに立ち去っていく。牢に流れる空気がやけに冷え込んできた。
――愛してらっしゃるのね。
この気持ちを愛と呼ぶには、あまりにも幼いと思っていた。
傍にいるということ以外の選択を考えられるわけでもなく、ただただ甘えるばかりで……。
半地下の牢から見える地上の光を、青明はその深い色の目を細めて、しばらく眺めていた。
ふと気がつくと、再度、人の気配が牢に寄る。
「……まだ、何か?」
疲弊を声色に漂わせてゆっくり振り返れば、それは思っていた彼女ではなく、
「赤伯、さま……?」
「青明……」
「どうしてここに」
青明は目を瞠り、柵の向こうに立った赤伯の存在を捉える。
「どうしても話がしたくて、無理言って少しだけ入れてもらった」
「わたしは……話すことなんて、ありませんよ……」
「青明!」
隔てる格子を、力強く掴む鈍い音と共に、赤伯は声を張る。薄暗い牢で、赤伯の金眼がぎらきらと輝きを宿した。
「俺は! ……諦めたくない!」
「……っ」
「お前が好きだよ、青明。俺の人生とか、お前の人生とかじゃなくてさ……」
張り詰めた状況で、あまりにも穏やかな赤伯の声。それは真綿のように青明の心を包んだ。
「俺達の人生を、一緒に歩きたいって思ってる」
「……き……く、さま……赤伯さま……!」
――どんな小さな一歩でも、あなたがいたから踏み出せた……――それを、忘れたいわけではなかった。
ただ、受け入れるにはあまりにも臆病で、自信がなかった。
弾けるように近寄ると、格子越しに指を絡ませる。温かい。この温かさが、確かな答えだったのだ。
「青明、今回の件、明らかにしていいな?」
「え……?」
「お前だって、なんとなく察しはついてるんだろ」
……ご自分の罪を受け入れて、静かに去ろうとしているのね? 翠佳の、甘すぎる声を思い出す。
「……はい」
「大丈夫。悪いようにはならないし、させないから」
そうして一層強く指を絡ませると、力強く頷くのだった。
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