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赤髪の花婿・12

「ああ、命に別状はなかったとはいえ、嫁入り前の体に傷一つでも残されたら……もう、どうにかなってしまいそうですわ……」 「……」 漣緋の声は聞こえる。聞こえてはいるが、赤伯の想いはどこか遠くへあった。 「太守様も、本日は朝からお疲れでしょう」 「いや……そんなこと……」 肝心の青明はいま、太守館に備えられている半地下の牢にいると、女官が話しているのを聞いた。 会いにいきたい。話をしたい。 が、漣緋がまるでそんな自分を見張るように見ている。 (どうして……こんなことに……) 赤伯の暗い顔を見て、漣緋は視線を伏せる。 「申し訳ございません。太守様のご友人に失礼でしたかしら……お茶をいれてまいりますわ。少々お待ちくださいね」  ◆ ◆ ◆ しめった空気が流れ、錆びた鉄のにおいが漂う柵の中で、青明は静かに座っていた。 罪人としての連行と収容。 おそらく自分のしたことを考えるに、鞭か杖で叩かれたのち、故郷への送還だろう。 「……なんとも無様な……」 甘い夢を見ていた。心を溶かされて、これからは思うままに振る舞ってもいいかもしれないなんて、幼すぎる夢を。 努力をしてどうにかなる、そんなことばかりではないと知っていた筈なのに、どうして忘れてしまったのだろう。 (さっさと罰して、楽にしてほしいものです……) 内心で自嘲していると、牢の見張りが色めき立つ。 やがて、青明の入る牢へ足音が近づいた。こつこつと、場に不釣り合いなほど、心地よい木沓の音を鳴らす主は―― 「……ここは、あなたのような女性がいらっしゃる場ではないですよ」 「青明様」 現れたのは青明が刃物を向けた相手とされる、翠佳だった。 左腕に包帯を巻き、安定のために首から下げた布で支えている。 「お怪我は、いかがですか?」 青明は彼女を見上げ、そう問いかける。 「……わたくしの、心配を……?」 「空気の悪いところにおられると、怪我に障りますから」 「……青明様。あなたは……すごい方です」 「え?」 相変わらずおっとりと優しい口調で話す翠佳だが、その瞳はなんらかの決意を下したように光った。 「本当に、太守様のことを……――愛してらっしゃるのね」 「……なに、を……?」 翠佳のその言葉は、背筋を撫でる冷ややかな指先のようだった。それほどまでに、青明に寒気を覚えさせた。 「初めてあなたを見た時に勘づきました。あなたは太守様に恋をしている……だから、傍にいらっしゃる」

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