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第40話 あっ♡

 お手洗いを出ると廊下を歩いて待ち合わせ場所へと向かう。  横並びで手が触れそうな距離で歩いていると、敦がいきなりため息を吐いたので、旭は驚いて顔を見た。 「そういえば明、昨日の晩に仕事の事考えてて告白するの忘れてたらしい」 「えっ!?」  告白を忘れるほどに仕事の事を考えてるって、どれだけ仕事が好きなんだろうかと、旭が驚いていると、敦が呆れた顔をしながら口を開いた。 「あいつは恋愛より仕事の方が大事だからな。だから、新さんが困るんだよ」 「もしかして、新さんも明さんの事を?」 「そうだけど、明も旭と同じで鈍いから全然気付いてない。側から見たら恋人みたいなこと普通にしてるけどな」  つまり、明は新と部屋に泊まり合ったり、一緒の布団に寝たりしているのに思いに気づいてないのかと、旭は明と思わぬ共通点を見つけて、微笑んだ。 「へぇ。なんか明さんに親近感湧くな」  そう話していると、遠くから呼ぶ声が聞こえてきた。 「おーい敦!!久しぶりだな!!」  驚いて、声がした方を見ると170cmほどの黒髪のマッシュパーマで黒いポロシャツにジーンズを着た男性が大げさに手を振っていた。 「明。声デカいって」  敦か明に駆け寄って行ったので、旭も後から着いていく。  イメージ通り優しそうな明に、旭はほっと胸を撫で下ろした。 「ごめんって。久しぶりでテンション上がっててさ。あ、こちらが噂の」  明と目があった旭は慌てて挨拶をする。 「初めまして、旭です。敦から明さんの話は聞いてます。気軽に旭って呼んで下さい」 「こちらこそ、よろしく!こっちも明でいいし、同い年なんだから敬語使わなくても大丈夫だよ!ほら、肩の力抜いて」  明は少し、緊張気味の旭の肩に触れると優しく揉んだ。  いい感じに、気持ちのいい揉みかたをされてしまい、旭は思わず声を出してしまう。 「あっ♡」 「えっ!?」  肩に置いた手を止めて、驚いて旭を見る明と、慌てて手で口を塞ぐ旭の間に敦が割って入ってくる。 「ほら、旭は敏感で俺しか触ったらいけないんだから明は離れて。それで、新さんはどこに行ったんだ」  恋人に触られて微妙に怒っている敦に、明は両手を上げて降参のポーズをとった。 「あぁ。新ならさっき写真一緒に撮ってって女の子達に頼まれてたから、俺だけ先に待ち合わせ場所に来ちゃった」  それを聞いた旭が不思議そうに敦の方を向く。 「なぁ。何で新さんだけ写真頼まれるの?」 「そういえば、旭には話してなかったな。新さんの本名は西園新っていうんだ」 「西園新って有名なファッションモデルじゃん!頭痛くなってきた」  敦の交友関係は一体どうなってるのだと、旭がめまいを起こしそうになっていると、再び明が大声を出した。 「あ、新!こっちこっち!!」  明が手を振っている方向を見ると、周りの人と明らかにオーラの違う身長185cmほどの焦茶色のセンターパートで白いワイシャツにグレーのスラックスを着た男がこちらに向かって手を振っていた。 「凄い、本人だ」  旭が目を輝かせながら新を見ていると、敦は不機嫌そうに恋人を睨んだ。 「本当、旭ってイケメンに弱いよな」  愚痴を無視して見つめているうちに、新がこちらに駆け寄ってきて、合流する。 「こちらが、噂の敦の恋人?」 「は、は、初めまして」  顔を赤くしながら緊張してソワソワしている旭を見た新は、微笑みながら手を差し出してきた。 「こちらこそ、初めまして。旭の話はよく明から聞いてるよ。これからよろしくね」  こんな挙動不審な自分を目の前にしても何とも思わないなんて、なんて優しいんだろうと旭も手を差し出す。  暖かくて大きな手と、細長くて綺麗な指に手を握られて、握手しただけでも気絶してしまいそうになる。 「ほら、旭もういいだろ」  新といちゃついている旭を敦は後ろから抱きしめると、耳元に唇を近づけた。 「あまり新さんと目合わせてると、石になっちゃうぞ」  耳元で怖い話でもするように声のトーンを落としながら、そう囁かれるとゾクっとしてしまう。  まさかとは思うが、新さんの目は敦と同じように、長い事見つめていると吸い寄せられて石のように固まってしまうような、澄んだ目をしていた。  だから、あながち敦の言うことは間違っていないのかもしれない  そんな二人に新は呆れながら、肩を落とした。 「俺はメデューサかよ。って、明はどこに行く気だ」  新はこっそり売店に行こうとしている明を素早く見つけると、睨みを効かせる。  目が合った明はイタズラがバレた子供のようにしょげていた。 「暑いからアイス食べたいなって」 「アイスならさっき機内で食べただろ。1日2個食べたら糖質と脂質の摂りすぎになるからダメだ」 「え~っ。いいじゃん別に」 「ダメだろ。それで明が体壊したりしたら俺はどう悔やんだらいいのか……」  上目遣いでアイスをおねだりする明に、新は悲しそうに目を潤ませながら、子供を叱る親のように言い聞かせた。  その表情を見た明も悲しそうな顔をして、新を見つめる。   「分かった。辞めるから、そんな悲しそうな顔するなって」 「本当か!じゃあ、ご褒美に頭を撫で撫でしような」 「うん」  新はニコニコと微笑みながら、頭に手を置くと小動物を撫でるような優しい手つきで明を撫でる。  そんな二人を敦と旭は呆れながら見ていた。 「な、これで付き合ってないっておかしいだろ」 「うん」  最初は明にも子供みたいに可愛い一面があるのかと、ほっこりしながら見ていた旭だったが、途中から繰り広げられるバカップルの会話に呆気に取られてしまっていた。

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