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第41話 二人とも早く来ないと置いてくよ

「そろそろ、俺の家に移動するか」  敦が見つめ合いながらイチャついている二人に冷ややかな視線を送ると、二人は慌てて離れて距離を置いた。 「そうだな。具材はこれから買いに行くんだったよな」 「あぁ。だから、買い出し班と準備班で別れて行動しようか。とりあえず、俺がいなきゃ皿の位置とか分からないだろうから、俺は準備班で3人はぐっとっぱっで決めるか」  旭が二人に近づくと、二人も手を出してぐっとっぱっの姿勢になる。 「ぐっとっぱっ」  三人の声が重なり、なんだか楽しくなった旭は自然と笑顔になっていた。  旭と明がパー、新がクーを出したため、前者が買い出し班で後者が準備班になる。 「ちぇっ、新さんとかよ」 「俺で悪かったな。明と買い物に行きたかったのに」  不機嫌な二人をよそに、買い出し班の二人は盛り上がっていた。 「やった!旭と買い物に行ける!ねぇ、美味しいケーキ出してくれるカフェ知ってるから、帰りに寄ってこうよ!」 「ケーキ!行く!明も甘い物好きなんだ」 「うん。大好きだよ。そこのカフェはシフォンケーキが一番人気なんだけどさ……」 「明?さっきの話ちゃんと聞いてたのか?」  仲良く話している二人の間に、鬼のように怖い形相をした新が割って入る。  それを見た明は、泣きそうな顔をした。 「ケーキもダメなの?今日も、甘い物一個だけ……」 「前、医者に甘い物の食べすぎは良くないって、言われたろ。それに、これから手巻き寿司食べるんだからケーキ食べちゃダメだろ」 「そうだった!手巻き寿司食べるんだった!」 「そうそう、俺が美味しい手巻き寿司作ってあげるからさ」  それを聞いた明が目を輝かせていると、横にいた旭も慌てて頷く。 「そうそう。俺もケーキ我慢するし、頑張ってふわふわの卵焼き作るからさ」 「やった!俺、卵焼き大好物なんだ。甘いやつだよね」 「うん。甘いのだけどちゃんと糖質が抑えてある甘味料使うから、沢山食べても大丈夫だよ」 「楽しみだな。早速、買い出しに行こうか」 「うん、行こうか」  仲良く手が触れそうな距離で、並びながら歩いている二人を、残された敦と新は羨ましそうに目で追った。 「俺の作る手巻き寿司より、旭の作る卵焼きなのか……」  肩を落として涙ぐむ新の肩を、敦が残念だったなと軽く叩く。 「旭の作る卵焼きはめちゃくちゃ美味いからな。それより、旭が許しても俺は新さんが旭を呼び捨てで呼ぶの、許してないからな」  敦が新を睨みつけると、負けじと新も睨み返した。 「俺だって、敦が明の幼馴染だろうと、明の事を一番分かってるのは俺なんだからな」  火花が散りそうなほどに睨み合った後、フンっとそっぽを向く二人を、旭と明は笑い合いながら遠くで見ていた。 「二人とも早く来ないと置いてくよ」  愛しい二人の呼びかけに喧嘩をしていた二人は小走りで駆け寄る。 「ごめん」  駆け寄った二人はデレデレとした顔をしながら、旭と明の後を着いて行った。 「じゃあここで別れようか?」  空港から出てタクシー乗り場に向かった4人は、別れてタクシーに乗りそのまま敦の家と家の近くのスーパーへと向かった。  旭と明が同じタクシーへ乗り込み、旭が運転手に目的地を伝え終わると、明が声をひそめながら話しかけてくる。 「旭、苺は買ったらダメかな」 「苺はいいけど、食べる時に砂糖付けたりしたら怒られるだろうね」 「そうか……。なら諦める。コンデンスミルク付けた苺食べたいのにな」 「食べるなら明日だね」 「うぅ……。新は俺が体壊して作品作れなくなるの嫌だから、あんなにムキになってるんだろうけと、俺は好きなだけ甘いもの食べたいよ」  口を尖らせて不機嫌そうな顔をする明に、新の思いに本当に気がついていないんだなと、旭は頭を抱えた。 「作品のためだけに、あんなにムキになるかな?」  呆れ気味に旭がそう言うと、明はちょっとムッとしながら言い返す。 「新は俺の作品が命と同じくらい大事だから、それくらいするよ」 「新さんが大事なのは本当に作品だけなのかな?明が病気に苦しむ顔を見たくないから、ムキになるんじゃない?」  旭が明に言い聞かせるように優しく言うと、明の顔がみるみる赤くなっていく。 「新が俺を……」  恥ずかしさで顔を手で隠しながら俯く明を見ながら、ちょっとは役に立てたかなと旭は微笑んだ。

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