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第42話 よろしくお願いします
目的地に着き、運賃を払ってタクシーを出るとそのままスーパーに入り、そのまま野菜コーナー、精肉・鮮魚コーナーと回る。
店内をずっとキョロキョロと珍しそうに見ている明を疑問に思いながら、旭はメモ帳に書いてる物を次々に買い物カゴへと入れていく。
「旭はよくスーパーに買い物に来るの?」
「うん。健康の為に自炊してるし、たまに泊まる時は一緒に料理作ったりしてるから」
「へぇ。いいな。俺は手伝いしたいけど新に包丁持ったらダメって言われてるから」
「え!?なんで」
「指でも切ったら、悲しくてどうにかなりそうだからだって」
「新さん、ちょっと過保護すぎないか……」
「そうなんだよ。だからスーパーで買い物とか、ほとんどした事なくて」
「それなら、新さんにお買い物デートしたいって言ってみればいいんじゃないかな」
「で、デートって……まだ付き合ってもないのに……」
明の顔がまた、みるみる赤く染まっていく。
「きっと喜ぶと思うよ」
旭は赤くなっている明を可愛いなと思いながら、笑顔で見た。
すると、明がいきなり何か思いついたようにハッとコチラを見る。
「そういえば敦は元々料理上手かったけど、旭と出逢ってからもっと腕上がったな。これが恋の力ってやつなのかな」
「恋の力ってそんな恥ずかしい」
今度は旭の顔が赤く染まっていく。明は負けず嫌いな性格だったのかと後悔したが、もう遅かった。
「それにしても、これまで敦に言い寄ってくる人って、顔しか見てない人ばっかだったから。本当に旭が敦の恋人になってくれて良かったよ」
「そうだったんだ。だから、俺が初めて本気で好きになった人って……」
「そうそう。こうやって恋人紹介されるのも初めてだったから、こっちもドキドキしたよ」
「へっ、へー。初めて……」
どんどん、赤くなっていく旭を面白がるかのように、明は次々とエピソードを追加していく。
「うん。で、このまま敦と同居とかするの?」
「ど、同居って気が早いって」
「俺、二人の為にタキシード作製する気でいるけど」
いきなり真剣な顔つきになって見つめてくる明の眼力に、旭はたじろいで降参するしかなかった。
「よろしくお願いします」
「やった!早速、明日から作ろっと」
敦も明も強引なところは似てるなと呆れながら、旭は買い物カゴの中に一番高いいくらを入れた。
スーパーから出て敦の家へと向かった二人は、玄関先で部屋の中から聞こえる怒鳴り声に驚いていた。
「あの二人っていつもこう喧嘩してるの?」
「いつもはこれほどじゃないけど、たまにしてる」
顔を合わせて、どっちが喧嘩を止めようかじゃんけんをしようとした時、玄関の扉が開いた。
「おかえり、旭。荷物重かったろ」
「敦!ちょっとどけよ。明、おかえり」
競うように玄関から飛び出てきた二人に、旭と明は目を丸くしながら驚いた。
「ただいま。ちゃんとメモに書かれてた物買ってきたから、とりあえず中に入れて」
旭と明が呆れながら二人を見ると、しょげた顔をしながら部屋の中へと引っ込んでいった。
まるで犬みたいだなと思いながら、靴を脱いでから部屋に上がって、キッチンへと向かう。
テーブルの上には綺麗に積み重なった和食器と箸とスプーンと冷たい緑茶とグラスが準備されていた。
旭は明から買い物袋を受け取ると、買ってきた物をキッチンへと運んでいく。
そこには、しょげながらすし飯の準備をしている敦がいた。
「新さんと、何喧嘩してたの?」
旭が、玄関先で聞こえた怒鳴り声の原因を確かめようと敦に尋ねると、敦は泣きそうな顔をしながら旭を見つめた。
「新が俺の事いじめるんた。だから、俺もムキになって……」
今にも泣きそうな敦を見て、旭は慌てて駆け寄って涙を拭おうと、顔に手を添えた。
敦の暖かい頬の温もりが手に伝わってきたかと思うと手を重ねられ、段々と顔を近づけられる。
「旭、騙されるなよ!喧嘩の原因は何処の席に誰が座るかで揉めてただけだからな!」
それを見ていた新が、敦を睨みつけながら忠告すると、旭は胸を撫で下ろした。
「なんだ、そういう事だったのか」
旭が敦の頬から手を離して、買い物袋の元へと向かうと、敦も余計な事を言うなと言わんばかりに新を睨みつけた。
「で、誰が何処に座るか決まったの?」
椅子に座りながら、緑茶をグラスに注いで飲んでいた明が尋ねると、新が聞いてくれよと、駆け寄る。
「俺の隣には絶対に明が座るだろ、そんで、明の前に旭が座って横に敦が座るとすると、俺と敦が向かい合わせになるわけだ。それをこいつは嫌だっていうんだよ」
「嘘つくな!お前も、嫌だって言ったろ!」
また、火花が散りそうなほどに睨み合う二人を、まぁまぁと明が宥めるように間に入る。
「じゃあ、俺の目の前に敦が座ればいいじゃん」
「そうしたら、旭の前は新さんだろ。そんなの絶対に許せない」
「俺だって、明の前に敦だけは置けないな」
「じゃあ、キッチンとリビングに席分けて食べれば?」
「それじゃ、パーティーの意味ないだろ」
「もぉっ!!二人ともめんどくさいな!それじゃ、立ちながら自由に食べればいいじゃん」
明の名案に二人とも顔を見合わせながら、なるほど、と頷く。
「そうだな。リビングのテーブルなら立って食べても低くない高さだし、手巻き寿司なら皿持って食べればいいしな」
「流石、明だ!」
そうしているうちに、台所から卵を焼く香ばしい香りが漂ってくる。
「ほら、敦はすし酢の準備して、二人は買ってきた具材をお皿に並べて」
「はーい」
三人の声が重なると、四人とも笑顔になり和やかな空気が広がった。
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