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第43話 敦のせいだ
旭が美味しそうに焼けている卵を箸で巻いてから、キッチンペーパーに染み込ませた油を塗り広げていると、台所に戻ってきた敦に後ろから覗き込まれる。
近づいてくる顔に思わず体をビクッとさせながら頬を赤らめていると、耳元でクスリと笑われた。
「美味しそうに焼けてるな。お願いごとは決まったのか?」
「まだ、決まってない。真剣に料理してるから今は声かけないで」
口を尖らせながら、そっぽを向いて追い払う。
そんな旭を見ながら、敦は本当に可愛いなとニヤニヤ笑った。
「そうだな。上手に焼けたらって約束だからな」
鼻歌を歌いながらすし飯を作りに戻る敦の方を見ずに、旭は顔を赤くさせながら卵を追加した。
これまでで、一番美味しい卵焼きを作って敦を驚かせてやる。そして、自分の作った卵焼きしか食べられない体にしてやる。
意気込んで、素早く卵焼き器に卵を広げながら、奥に固めてある卵の下にも卵を引いて厚さを均等にさせていく。
綺麗に出来上がった卵焼きを、皿に移して覚冷ましていると、明が香りに誘われて近づいてくる。
「ちょっと、食べてもいい?」
「つまみ食いしたら、お行儀悪いってまた新さんに怒られるよ」
「なんで、その事を旭が知ってるの!?分かったお腹空いてるけど、もうちょっと待ってる」
旭は新がそれについて怒っていた事は知らなかったが、やっぱり怒られていたのかと、少し笑ってしまった。
そうこうしているうちに、着々と具材が出来上がっていき、テーブルの上も華やかになっていく。
「いっけなっ。マヨネーズ切らしてたの忘れてた」
具材を作っていた敦は冷蔵庫を覗きながら、肩を落としてため息をついた。
「じゃあ、ツナマヨなしか」
つられて、明もがっくりと肩を落として残念がる。
「俺、手空いてるし買いに行くよ。スーパー近いし」
それを見ていた、旭はエプロンを脱いで財布を取りに行く。
すると、後から敦もついてくる。
「じゃあ。俺も」
「一人で行くから敦は残ってて」
「えーっ」
ガッカリして凹んでいる敦を尻目に、旭は一緒に買い物に行ったら、きっと近くにある公園のトイレとかで襲われるに違いないと、身の危険を感じながらそそくさとサマーニットを羽織って玄関に向かう。
「もし、お腹空いたら先に食べててもいいから。じゃあ、行ってきます」
旭は玄関を出ると、そのままさっき買い物をした近くのスーパーへと向かう。
その最中、さっきの席決めの話を思い出しながらため息をついた。
敦の前に明が座るかもしれないとなった時、嫉妬してしまった。それも、かなり。
他人ならともかく、敦の友達にまで嫉妬してしまうなんて、頭を冷やしてから家に戻らないと。
スーパーの店内に入ると、マヨネーズと冷たい缶コーヒーを買い物カゴに入れ、レジへと向かった。
缶コーヒーを飲んで、落ち着いてから家に戻ろう。
レジに並びながら深呼吸をすると、ちょっと安らいだ気がした。
近くの公園のベンチで缶コーヒーを飲み終えてから、そのまま敦の家へと帰る。
扉の前に立つと、中からまた騒がしい声が聞こえてきた。
今度は何を揉めているのだろうと、旭は呆れながら、ゆっくり扉を開けて中へと入ると、そのまま靴を脱いでキッチンへと向かった。
そこでは、三人が立って明を挟みながら、出来上がった海苔巻きを食べさせあっていた。
「ほら、俺の作った海苔巻きの方が美味いだろ」
新が海苔巻きを明の口元に持っていくと、そのままもぐもぐと美味しそうに食べていく。
その光景を見た旭は、敦が明に食べさせる姿を思い浮かべてしまい、嫉妬で目眩がした。
「旭、お帰り。マヨネーズありがとな!旭!?」
敦が呼びかけているのにも気が付かずに、放心状態になっていた旭は、我に返ると持っていた買い物袋を敦に震えながら渡した。
「俺、用事思い出したから帰る」
敦と目線を合わせずに、買い物袋を受け取ったのを確認すると、そのまま玄関へと走って向かい、踵を踏んだまま靴を履いて急いで玄関から外へと出る。
そして、駅へと向かってそのまま走った。
以前ならこんなに嫉妬する事なんてなかったのに、全て敦のせいだ。敦が自分の事ばかり考えて行動するから、敦が自分だけを見てないと耐えられない体になってしまったんだ……。
旭は電車の中で俯いて座席に座りながら、これからどうすればいいのか分からず、泣きそうな顔をして家の最寄駅へと向かった。
最寄り駅へと着くと、真っ直ぐに家へと向かう。
きっと、三人とも心配していて、今頃LINEと着信がかなりきているだろう。
自分の事をそれほど思っていてくれている人がいるのに、素直に気持ちが言えずに敦の家を飛び出してしまうなんて……。
それに、敦にまだ好きだとも言えてない。こんな自分が恋人で敦は本当にいいのだろうか。
自分がとても情け無いやつに思えた旭は、帰り道の途中で泣き出してしまった。
大粒の涙が頬を伝っていく。
こんなに泣いたのは、敦と両思いになった日以来だと、その日の事を思い出してまた大粒の涙を流してしまう。
手で涙を拭いながら、マンションのエレベーターへと乗り、部屋の階数のボタンを押す。
帰ったらまず、敦に電話を掛けて謝ろう。そして、素直に気持ちを伝えようと、旭は心に決めた。
目的階に着きエレベーターが止まると、涙を拭いて前を向く。
すると、家の前に見知った人影が見えた。
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